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第3話◇毎週 限界

「っだー疲れたわ! もう限界」 「蒼生、毎週同じ事言ってる……」  親友の中原 祥太郎(なかはら しょうたろう)は、オレの前にビールのグラスを差し出しながら、苦笑い。 「毎週限界って、じゃあ先週は限界じゃなかったんじゃねえの?」 「……その時の限界を毎週更新してるって事だろ」  不機嫌に返すと、祥太郎はまた苦笑い。 「あー、ほんとむかつく……マジで、闇討ちするか……」 「蒼生、お前、今はまじめなサラリーマンだろ。闇討ちとか言うなよな」  呆れたような祥太郎に、大きくため息。 「だから、手ぇ出してねえだろ……するなら今頃尾行してるわ。ていうかオレ、不真面目な昔も、闇討ちなんかしたことねえけど」 「ああ、そうね、いつでも正面突破だもんな」  クスクス笑う祥太郎。  ここは、祥太郎の出した店。  高校時代はオレと一緒に超やんちゃしてたが、そのやんちゃから足を洗う約束で、専門で料理を勉強した後、金持ちの親に援助してもらってこの店を出して、意外とうまくやっている。  まあ店の場所も良いし、酒も良いのが色々入ってるし、美味いつまみをつくる料理人も雇ってるし、祥太郎の飯も美味い。店も豪華だし、そりゃ客も入るだろうと思うのだけれど。  都内のオフィス街近くに店を出したら、たまたまうちの会社のすぐ近く。  ここに来てカウンターで飲んで帰るのが、良いストレス発散。 「……オレもこの店で働くわ。雇え」 「お前、接客なんかできんの?」 「つか、お前に出来んならオレにもできるし。――――……ていうか、オレ今普通に営業してるし」 「ああ、そっか。まーいーけど。お前フロアー入ってくれれば、女の客がすげえ増えそうだし。……いや、でもお前、やめらんねえだろうが、会社」 「――――……」  祥太郎の言葉に、ため息をついて、カウンターに突っ伏した。  祥太郎は笑いながら、小皿を目の前に置いた。 「おごりにするから、味見して」 「ああ」  鶏もも肉とナッツの料理。 「美味い――――……けど、つまみで食うには、ちょっと塩気たりねーかな」 「あ、やっぱり? 塩分控え目と薄味の境界がなー……」 「まあでも、そのままでも、美味いけど。上手い塩でも添えて出したら?」 「ああ、それ良いな。お前の味覚だけは、ほんと信頼できるな」 「だけはって何だ」  笑って言いながら、残りを口に入れて、ふー、とため息。 「んで? 限界ってのは、また先輩のこと?」 「……マジ限界」 「ははっ。まあ、エライエライ。ここで愚痴ってるだけで、とりあえず我慢てのが出来るようになっただけ、大人んなったよな」 「………」 「昔のお前だったら、1日目でぶん殴ってただろ」 「――――……」  そう出来たらどんなに良いか、と思いながら、ビールを流し込む。  ――――……でも、実際殴れと言われても、あのキレイな顔、殴れるか?  って、おいおい……。  ……咄嗟の自分の思考にすぐに気付いて。    余計に不機嫌になる。

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