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第4話◇若気の至り

「その先輩の愚痴、いつも聞いてっけど…… 何かいまいち残んねえんだよな。お前いっつも、ムカつくとか、つぶしたいとか、そんなんばっか。……結局、何がそんなにムカつくんだっけ?」 「もう言い切れねえし――――……多分、お前だったらもう3回位半殺しにしてると思うぜ?」 「はー? 蒼生が我慢してんのに、オレがすっかよ」 「いや、絶対やってる」  はー。  マジで、ムカつく。 「……で、何が一番ムカつくの?」 「全てだけど――――……喋り方とか顔とか」 「喋り方とか……顔? ……偉そうとか?? 先輩にとっては、お前はただの後輩だろ? しょーがねえじゃん」 「――――……」  別に偉そう、とかじゃない。  ただ、冷たい、だけ。抑揚がないと言うか。  他の奴には笑うのに。  ……と、ここまで言うと、それはまた別の話になりそうで、口に出せない。  だからきっと、祥太郎は、はっきりオレのムカつきの原因が分かってない。 「まさかお前が、元総長なんて知らねえだろうしさ」 「……でけえ声で言うな」 「……まあ、お互い、若気の至りってやつだけどな」  祥太郎がクスクス笑う。  ……そう。完全な、若気の至り。    高校時代。元々は、派手に走りたくて、騒ぎたくて入ったチームだった。  ただ、オレも祥太郎も、当初から喧嘩が強くて負ける事が無かった。いつしか最強コンビと言われるようになり、当時の総長に可愛がられるようになり――――……そして、遂には、オレが総長、祥太郎が副長を引き継いだ。  オレ達の時代は、チームの歴史上でも、最強時代と言われていて、どんどん人数も増えていき、喧嘩をふっかけてくる族は多かったけれど、結局無敗のまま、後輩にその地位を引き継いだ。  オレも祥太郎も、幼稚園からのエスカレーターの私立。頭のいいお堅い学校で、優等生。何とも言えない鬱憤を全部、そっちにぶつけてた。  髪型変えて、服装変えて、喋り方変えれば、誰も気づかない。  派手に走り回って、女にもモテて、後輩達にも慕われて。  かなり楽しい高校時代だった。  バレる事なく、上手く高校をやりすごし、そのまま大学に進んだ。  楽しみ尽くしたからか、大学に入ってからは、自分でも嘘のように落ち着いた。たまに、チームで走る時に、混ざったりする事はあったが、総長をやってたなんて事は、大学の周りの誰にも気づかれず。普通に楽しい大学生活を謳歌した。  ――――……大学卒業間近の、冬。突然、親父が倒れた。  命には関わらないが、治療に長い時間がかかる病気だと言って、会社を兄貴の|志樹《しき》に譲ると言い出した。今現在、社長はまだ親父だが、兄貴は社長代理として職務に就いている。  その兄貴はオレに、その会社に入り、新人から全ての仕事を覚えろ、と言い放った。とっとと覚えて、手伝えと。  で、オレの教育係についたのが、兄貴の同期で親友の、陽斗先輩、な訳で。 「兄貴の親友じゃなかったら、言う事なんか聞くかっつの……」 「――――……志樹さん、怖えもんな……」  兄貴は兄貴で、高校時代、また別の族に入ってて、伝説の総長。  オレと祥太郎は強くて有名だったけど、兄貴は、最恐で有名だった。  何をしてたかは、聞きたくねえから、聞いてない。  昔から、ほんと、出来が良くて、でも何となく逆らっちゃいけない気がする兄貴で。 「……つか、志樹さんはマジで怖い」 「今なんて、爽やかイケメン社長代理とか言われてんぞ。あのすかした笑顔見てると、背筋が凍るし」 「――――……で、志樹さんと仲良しの先輩が、お前の教育係んなったんだろ?」 「……兄貴から何て言われてんのかしらねえけど、毎日毎日毎日、ものすごい量の仕事振ってきやがって、褒めもせず、視線はものすごい冷てえし。あー……思い切り殴ったら、すっきりするだろうなあ……」  言うと、祥太郎は苦笑いを浮かべて。  それから、ふ、と気付いたように、オレに視線を向けた。 「あれ? 顔、キレイなんじゃなかったっけ」 「は?……オレそんな事言った?」 「言ってた、一番最初に。男のくせに、顔だけはすげえキレイで、それがまた腹立たしいみたいな……」 「――――……」 「そんなキレイな顔殴って、すっきりすんの?」  ついさっき自分でもちらっと考えていた事だったせいで、祥太郎の言葉に、ものすごくイラっとする。 「……男の顔とか、関係ねえし」  ――――……くそムカつく事に、顔はキレイ。  肌白くて、きめ細かくて。  女子か? と思う位、睫毛長くて、透き通ってるイメージ。  ――――……でも。  だからこそ、余計に、冷たい対応取られると、冷たい印象は倍増で。  余計に腹立たしくてしょうがない。   「あれ? じゃあさ、その人が、すげえ褒めてくれて、ニコニコしてくれたら、好きなの?」 「……ありえないから、考える必要なし」 「――――……あ、否定しない訳か。ふーん」 「だから、ねえっつってんだろ」  何が言いたいんだか、わかんねえな。  

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