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第5話◇遭遇1

「――――……2年間、フル稼働で働きっぱなしってひどくねえ?」 「まあなぁ……でも、仕方なくねえ? お前の場合は、他の同期とは違うんだし」 「――――……」  兄貴がまだ若すぎるから、いきなり社長交代はせず、既成事実的に務めさせて、周りを納得させている所。  ――――……もう、十分な気がするけど。  この期間に一通り仕事を覚えろと、兄貴に言われている。  大体にして、兄貴は、素性は隠して普通の新入社員として入った営業部で、誰も抜けないような記録を打ち立てていた訳で。くわえて「若造が」などと口にできないような、あのオーラ。はっきり言って、親父よりもよっぽど、カリスマ性はある。  とにかく兄貴が営業部時代。  プレゼンや企画の立ち上げをしたりするのを、兄貴と一緒にやってたのが、陽斗先輩。仕事は出来る。それは認める。  営業先に回っても、相当信頼されてるし、好かれてる。それも知ってる。  オレが、社長である親父の息子で、社長代理の兄貴の弟っていうのを知ってるのは、先輩だけ。そこらへんも絶対漏らさないし。  ダントツで教え方はうまいし、あの人自体が色んな事が出来るから、教えてもらえる仕事の種類も、一緒に入った同期の教育係とは全然違う。  だから、オレを育てるために、兄貴があの人をオレにつけたのは、まあ分かる。  ――――……分かってるけど。 「あ、蒼生先輩ー」 「やっぱり居たー」  数人入ってきて、オレの隣に座る。 「また会社の先輩の話ですか?」 「うるせーな、お前ら、別のとこ座れよ」 「やですよ、せっかく会えたのに」 「そーですよ」  ぎゃいぎゃいうるさい。  族の後輩達。オレらから引き継いだこいつらも、もう下の代に引き継いで、もうとっくに足を洗ってて、マジメに会社員だったり、ちゃんと皆働いている。  けど、やたら懐かれたままで。  祥太郎が店を開いた事を良い事に、客として結構な頻度でやってくる。  態度が悪かったりうるさくなると、祥太郎にシメられるのが分かっているので、結構な団体で来てても、割とお行儀良くしている。 「後輩達でずいぶん稼いでねえ?」 「あーそーだな。色んな奴、来るしな」  オレの言葉に祥太郎もクスクス笑う。  まあもう見た目には、誰も族の名残もねえしな……。 「蒼生先輩、あっちで飲みましょうよ」 「オレは今、祥太郎に愚痴り中なんだよ」 「もう結構愚痴ったでしょ? テーブル席いきましょ」 「後で行くから、先飲んでろよ」 「はーい」 「まってまーす」  それぞれ返事をしながら、離れていくのを見送ってると。  祥太郎がクスクス笑った。 「相変わらず、人気あんなあ」 「そーなのか?」 「まあ、最強だけど仲間には優しい総長、だったもんな。そりゃ人気あるよな。先週お前が居なかったから、寂しそうだったぞ。……そういや、合コンだったんだっけ?」 「ああ、そう。久しぶりに合コンだった」 「お持ち帰りした?」 「――――……んーまあ」 「何その返事」 「なんか最近、盛り上がんねえんだよなー……」 「うわー。 もう枯れた?」 「るせえな」 「好みじゃなかったの?」 「いや? ……イイ女だったけど。なんかなあ……」 「あれだな、お前は。今迄やりすぎたんじゃねえ?」 「――――……」 「やたらモテるし、特定の相手作んねえから、やりたい放題だったもんな。だからじゃねえの?」 「……まあ、引き続き、イイ女探すから良い」  ため息をつきつつ、ビールを飲み干した。 「なんかうまいカクテル作って」 「甘いの? 甘くないの?」 「甘くねーやつ」 「はいはい」  祥太郎がカクテルを作り始めるのを見ながら、またため息。 「お前、ほんと、ため息ばっか」  祥太郎に苦笑いされる。

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