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第7話◇最悪な部長命令

 金曜、祥太郎の飲み屋で会って、帰りにオレの所にわざわざ寄ってく兄貴と共にこっちに来て、おつかれ、とだけ言って帰って行った先輩は。  今週月曜に会った時から、やっぱりいつも通りだった。  2年間。祥太郎の前では愚痴っては居たけど、なるべくこの人の事は気にしないようにして、過ごしてきた。  でも。  もうすぐ、ペア解消かもと言われてから。  ああ、もう、最後までこんなかよ、と思ったら、  余計ムカつき始めて。  早く解消したいと思いながらも、なんかムカつく、という気持ちにずっと支配されてて。  あー。  思えば人間関係で悩むとか、マジで生まれて初かも。  悶々と過ごして、今週も金曜まで来た。  昼も終わり、あと数時間が終わったら今週も終わる。そんな時。不意に、部長に声をかけられた。 「三上ちょっと来て」  あまり直には呼ばれない。先輩が呼ばれて、それが伝わってくる感じが常。  しかもついていった先が、喫煙所……。何だ?と思いながら。  促されるままに、座ると。 「三上、お前今日明日空いてるか? 京都行けるか?」 「――――……京都ですか?」 「そう。京都。これから京都の取引先に行ってもらいたい」 「――――……」  京都。取引先、オレにはねえし。オレが選ばれる理由が見つからない。  京都は京都で、支社があるし、わざわざこっちから行く意味は? 「空いてるのか空いてないのか、どっちだ?」  色々思ってると、部長が答えを急かしてくる。 「空いてますけど……」 「じゃあ詳しく説明する」  部長の話は、こう、だった。  手違いがあって、取引先にお詫びに行かないといけない。  本来なら、京都支社から人をやるんだが、その取引先のお偉いさんが、最近までこっちに居た人らしく。こっちに居た時の担当者が、陽斗先輩で。  陽斗先輩なら話も分かってスムーズだから、先輩を寄こせと言った、らしい。ごねだすと面倒な人なので、新幹線でちゃちゃっと行ってくれるか先輩に聞いたら、全然良いですよ、との返答だったらしい。  ――――……なら、先輩だけでいいじゃねえか。  そう思いながら、聞いていると。 「謝罪とかはいつも2人で行くだろ。んで、誰に行ってもらうか考えたんだけど――――…… これは、渡瀬には言ってないし、極秘で」 「? はい……?」 「先方が、なんかどうも、渡瀬を気に入ってるみたいでな」 「――――……気に入ってる?」 「営業担当者としてじゃなくて。何度か会議とかでも会った事があるんだが、やたら渡瀬に絡むんだよな。まあ渡瀬は何となく、するする回避はしてるんだけど。あ、男だからな、向こう」 「――――……」  は? キモ。何だそいつ。 「今からだと着くの暗くなってからだし、これを京都支社の奴に話すのもあれだし。 お前なら強そうだし、謝罪も勉強って事で教育係の渡瀬についていかせやすいし。勉強がてら、内緒でボディーガードも兼ねて、行って欲しい訳」 「――――……」 「今からじゃ泊りになるし、謝罪終われば、美味いもん食って、泊まって、明日は観光でもして帰ってくればいい」 「――――……」 「結構良い旅行じゃないか?」  部長はもはや、オレが断るとは思っていない。  何でオレが、今、この世で一番ムカつくと思ってる奴のボディーガードなんてしなきゃいけないんだ。  しかも、美味いもん食って泊まってって。あの人と?  ――――……いやいや。  無えんだけど。

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