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第9話◇

「ん、新幹線は予約取れた」  そう言ってもしばらく、先輩は、スマホを弄ってる。 「部長が好きなとこ泊って良いって言ってたけど……三上、どーする?」 「どーするって?」 「一緒に泊まる?」 「――――…………」 「部屋は別が良い?」 「……別で」 「ん、分かった。ビジネスホテルじゃなくて、温泉あるとこにするかー……」  ひとりごとみたいに呟いて、先輩が言う。  ――――……今日は、いつもより、少し、喋るな。  一緒に泊まるって。  先輩の中で、ありなのか?  オレなら、嫌いな奴とは、一緒に寝たくなんかねーけど。 「京都って、旅館多すぎ。決めらんない……新幹線乗ってからゆっくり決めよ ……」  先輩はそう言って、スマホをポケットにしまった。  ――――……無言の時間。   「あー……あのさぁ、三上」 「はい」 「――――……部長、何でお前を直で呼んだの?」 「――――……」  ……何でって。  …………あんたが、狙われてるから?  ――――……言えるか。 「さあ。……行き帰りの交通費と1泊目の宿代は出してやるって言われましたけど」 「それだけ?」 「……まあ、そんな感じで」 「ふうん……なんか悪かったな、せっかくの週末なのに」 「いえ」 「つか、1泊目ってどーいう事? 2泊目があんの?」 「……したいなら2泊して、旅してきてもいいぞって。2泊目は自腹でって。交通費は帰りも出すぞって言ってましたけど」 「2泊してくの、お前」 「さあ。……分かんないです」 「まあ、でも――――……京都て、良いよな」  なんか。 ――――……楽しそうに笑いはしないけど。  いつもよりは、話してる気もするけど。  でもやっぱり、笑わない。  ――――……いつもあんなに笑う人なのに、何で、笑わないんだろ。  よく考えると。  営業の車とか、他の奴も居る休憩所とかで一緒になる位で、先輩とは全然プライベートの話とかはしてない。よく2年もこんなんで2人でやってきたなー…。  ほんと。   ……意味わかんねー人。  電車から降りて、新幹線のホームへ急ぐ。  自由席、どこもガラガラで座りたい放題な感じだった。 「どこに乗る?」 「好きなとこ、どうぞ」 「え?」 「離れた方がいいでしょ? 空いてるし」 「――――……業務中だし。移動は一緒にしよ」 「別に向こうついてから、ホームで会えば」 「三上、こっち」  ――――……聞いてねえし。  ため息をつきながらついていくと、  まわりに全然人が居ない所で、先輩が窓際に座った。 「向かい側、座れば?」  ――――……はー。  何で、こんな、真ん前に。  しかも近いし。  真ん前じゃなく、斜め前に、座った。  さっき買ったペットボトルを、椅子のドリンクホルダーに置いて、鞄を隣の椅子に置いた。  まだ走り出さない。  まわりに誰も居ないから、静かだし。   「ちょっとトイレ行ってきます」 「んー……」  京都まで2時間位だっけ……。  ……もー……寝るか。寝ちまえば、あっという間だよな。そーしよ。  席に戻ると、先輩はスマホを弄ってて。 「旅館ですか?」 「あ。いや……ちょっと志樹に……」 「……兄貴、ほんと仲いいですね」 「同期で入って、一緒にすげー頑張ったからな……」  ふ、と。笑う。  珍しい。  ――――……兄貴の事では、笑うんだ。ふーん……。  その笑みがまた、ムカつく。 「社長の息子なんて知らなかったから、いきなりでびっくりしたけど」 「――――……」 「でもって、びっくり同時に、弟、任されて、そっちも驚いたけど」  ちらりと視線を流されて、また少し笑う。  ――――……笑うと、ほんと、キレイだな。  まあ。少ししか笑ってねえけど。  先輩の持ってるスマホが震えだした。 「あ。志樹だ」 「デッキならOKってなってましたよ」  今トイレに行く時に張り紙を見た。 「行ってくる」  通話ボタンを押しながら、早足で、先輩が消えて行った。 「――――……」  なんかやっぱりわかんねえな。  オレを嫌いなんだと思うんだけど……明らかに嫌いだっーのは飛んでこない。でも、笑わないし、必要以上に話さないし、視線も。ちらっと見て、すぐ逸らされるし。  ――――……ほんと。ムカつく。  

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