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第11話◇
「……褒めると調子に乗るっていうのは……正直思い当たるんですけど。別に……普通に話しても、良くないですか?」
オレが言うと、先輩は、ちょっと困ったように、苦笑い。
「あー。……それはごめん、オレが無理で。志樹には、話すなとは言われてないよ? 最初は、ぜっったいに褒めるなって言われただけ」
「――――……」
「でも、仲良く話して可愛がってる後輩、褒めないなんて、出来る訳ないじゃん、ていう話になったら、仲良くしなくていいって言われただけで……オレ、正直、お前と目だってあんまり合わせないようにしてたし。目ぇ合わせると、笑っちゃうじゃん」
「――――……」
「……そんで仲良くなったら、オレきっとめっちゃ褒めちゃうし。……お前、あの状態でも、ほんと仕事どんどん覚えるからさ。 もう、割り切って、これで良いんだ、余計な雑談とかしない方が、お前の習得には邪魔にもなんねーし、と思って」
「――――……」
何だそれ。
――――……全部元々は、兄貴の差し金かって事は、分かったんだけど。
え、じゃあ。何。
褒めなかったのも、目を逸らされたのも、笑わなかったのも、
マジで、仲良くなんないため?
「……兄貴に電話してきます」
「え? あ ……え? ほんとに志樹に怒ってくんの……?」
「兄弟同士の話なんで、先輩は、ほっといてください」
「…………ええー…………」
先輩の、すごく困ったような声を背中で聞きながら。
オレはデッキまで、超急いで、兄貴に電話をかけた。
鳴らして1秒、すぐに出た。
『はいよ。――――……絶対ぇすぐかかってくると思って、待っててやったぞ』
「ざけんな、くそ志樹!!!」
『……つーか、お前、そこ新幹線の中じゃないのか? 声、でか……』
「んだよ、褒めんなって!! 先輩に何頼んでンだよ!!」
『お前褒めるとすぐ調子んのって、さぼる奴じゃん』
「……」
『お前が業務を覚えるのが最大の優先事項って事で、陽斗に頼んだだけ。仲良くしなくても、蒼生は大丈夫って言った。つーか、もしこの2年仲良くしてたら、蒼生は陽斗に懐いて、陽斗が可愛がって、絶対の絶対に、今の半分も業務覚えられてない。断言できる。お前だって、そう思うだろ?』
「ざけんな、んなことしなくたって、仕事位――――……」
『嘘だね。上に懐くのも、下に懐かれんのも、お前の特技だろ。で、その居心地の良さにあぐらかいて、努力しねー奴だって、お兄ちゃんは、知ってんだよ』
「――――……っっっ」
『陽斗はお前が大好きなタイプだし』
「は?」
『ルックス良くて、仕事が出来て、普段ならもっと優しいしな。そういう上によく懐いてたよな、お前。 でもって、陽斗も懐かれたらすげえ可愛がるタイプだから。絶対だめだ、2年間はバカな弟を厳しく指導頼むって、陽斗に言った』
「…………………っっっ」
くそムカつくけど、何も言えなくなる、オレ。
『途中で陽斗、何回も、もう普通に話して良くない?とか聞いてたけど、絶対ダメってオレが言った。案の定、お前、2年で物凄い、仕事出来るようになってるぞ。オレが今度2年分褒めてやるから』
「兄貴の褒めるとか、いらねーわ!!」
『つかお前、そこ、デッキだろ。本当に迷惑だぞ』
「うるせー!!!!」
もう、叫びしか出てこない。
何なのこいつ。
生まれて初めて人間関係で悩んだこの2年間、
このくそ兄貴のせいだったと思うと……っっ!!
『感謝しろよ。お前がオレの弟なんて知らない上司たちの評価も、上々だ。 オレがお前を引き上げても、まあ、そんな表立って文句も来ないだろ。 仕事で見せてくしかねえんだから、この2年はそれで良かったんだよ』
「…………っ」
……感謝?!
――――……できるか、マジ死ね、くそ兄貴!!!!!
『あ、オレじゃなくて、陽斗に感謝しろよってことだから。 あいつ、相当ストレスだったと思うから。オレの事は責めてもいーけど、陽斗の事は、責めんなよ』
「――――……」
『お前のメンタルが強くて、飄々とこなしてなかったら、陽斗が3日でもう嫌だって言いそうだった所を、どーにか2年近く頑張ってもらって、ここまで育ててもらったんだからな。』
「――――……っっっっっ」
『あいつみたいなタイプがなるべく業務だけ指導するとか、2年だぞ、2年。 よくやってくれたなと思う。途中で愚痴ってたのはオレが聞いてたとは言え、相当ストレスだったのは、お前より、あいつだから。――――……つか、マジで、陽斗に足向けて寝るなよ?』
てめーに言われると、すげーむかついて、素直に聞けねえっつーの!!!!
怒りで言葉が出てこないなんて、なかなか無い。
『あ。オレこれから会議だから。じゃあな。陽斗、責めんなよ。文句なら今度会った時オレが聞くから。ああ、2年分褒めろっつーなら、オレがたんまり褒めてやっから。じゃーな』
「待っ――――……」
……まだ今、全然言い足りねーわ!! 待ちやがれ!!!
ぶち。と。一方的に電話が切れて。
最後の方、可笑しそうに笑いながらの兄貴の声に、くそムカついて、その場で力を失ってしゃがみこんでしまった。
「……っち…… バカ兄貴のくそ野郎……」
深いため息とともに、そう言って、はー、とため息をついて。
足に力を入れて、立ち上がった。
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