12 / 270

第12話◇改めて

 兄貴との電話の後。怒りも冷めないし、正直、叫んだだけで言いたい事は少しも言えずに切られた電話がムカつくし、悔しいし。  まともに先輩と話せる気もしなくて、一旦席には戻ろうとしたけれど。席までたどり着いたけれどそのまま歩き進み、一つ通りすぎた所に座った。 「……何だよ、それ」  ぷ、と笑ってる気配。  ――――……何。 今迄笑わなかったくせに、そんな容易く笑うのかよ。  なんだかよく分からないモヤモヤに心を支配されたまま、その座席で数分が経った。 「――――……あのさー、三上」 「――――……」 「いつまでそっち居んの?」  先輩が後ろの座席から、聞いてくる。 「……三上の怒鳴り声、超聞こえたんだけど」  後ろから、そんな声が聞こえてくる。  ……ここまで聞こえたのか。  まあ、この席まで、客座ってねーし…… 反対側の車両はしらねえけど。……まあ仕方ない。  2年分の叫びだし。  叫び足りねーけど。  「三上って。 ……もー、こっち来いよ?」 「――――……」 「文句も聞くから、話そうよ」  先輩の静かな声。  何だかすこし落ち着いて、オレは、はあ、とため息を吐いた。  立ち上がって、仕方なく、先輩の前に戻る。 「なんか……ごめんな?」  とか言いながら、笑ってるしな……。 「三上、全然平気そうな顔してたけど、やっぱり嫌だった?」 「……決まってますよね」  声が低くなるのは、オレのせいじゃないし。 「平気じゃなかった?」 「……平気な訳ないですよね」 「んー……ほんとごめんとしか言えない」 「――――……ていうか、兄貴のせいですよね?」  はは、と苦笑いしてから。  先輩は、オレをまっすぐ見つめた。  まっすぐな視線も。  ――――……今まで、無いな。  目を合わせると、さりげなく、逸らされてたし。 「でも、志樹はお前にどうしても仕事覚えさせたかったみたいでさ。もうオレはあそこまで言われたら聞いてやるしかないかと思って……お前にとっても、仕事できるようになるのは良い事だと思ったんだよね」 「――――……」 「だから、ほんと、悪かったとは思うけど……でも、2年前に戻るとしても、オレ、同じ事するかなあ。……まあ、気持ち的には、すごい嫌だけどさ」 「――――……」 「三上、オレと話したかった?」  ――――……何て答えりゃいいんだ、そんなの。  黙ってると、先輩はふー、と息をついて、苦笑い。 「……ほんと、ごめんな?」  まっすぐ見つめられて、申し訳なさそうにしてる先輩に。  ――――……これ以上、何も言う言葉が見つからなくなる。 「……ていうか…… あの最低くそ兄貴のせいで、先輩にも無理させて、すみませんでした」 「――――……」  先輩が、ふ、と笑う。    この上なく。  キレイな笑みで。

ともだちにシェアしよう!