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第15話◇

 楽しそうに話しかけてくる先輩に、大混乱のまま、かろうじて応えながら。  後半は、今回の手違いの説明を色々されて、謝罪に行く理由とか諸々を教え込まれてる間に、あっという間に過ぎた。  駅からはタクシーで、その会社に向かう。 「そうだ、取引先の会社の資料。一応これも見といて」  渡されて、読み始める。 「あ、そういうの読んでても、車、酔わない?」 「ああ、オレそういうの平気です」 「そっか。なら良いけど」 「……先輩、酔うんですか?」 「うん。電車は平気だけど、車でそんなの読んだら、絶対吐く自信ある」 「……なんですか、その自信」  ふ、と笑ってしまうと。  じー、と見られた。 「……なんですか?」 「んー……オレがさ、笑わないようにしてたから、お前も、笑わなかった?」 「――――……」 「……なんか、三上が笑った顔って、そういえば、近くではあんまり見た事なかったなあと思って」 「――――……」  まあ。そう言われてみれば。ていうか、あんたが笑わないのに、オレが笑う訳ないし。 「……ていうか、近くではって?」 「オレが居ないとこでは、笑ってるの見かけてたからさ」 「――――……」  ……それ、オレのセリフだけどね。  あんたが他の奴と笑ってるの、すげー見てたし。  ……見ないようにもしてたけど。ムカつくから。 「あ、ごめん。邪魔して。 読んどいて」 「はい」  先輩は、オレと反対側の窓から景色を見てる。  なんか……。  ――――……さっきの衝撃から、少し落ち着いてきて。  自然な笑顔と言葉が、これが先輩なのかと思ったら。  今迄、態度の意味がよく分からなくて、理解できないから嫌いだと思っていたのが、違ったんだと思うにつれて。  なんか、すげえ、嬉しくて。  ――――……どうすっかなと、思う位。なんか、浮かれてる。  全然資料が頭に入ってこねえし。  何度も同じとこばっかり、読み返してる。 「読めた?」  ふ、とこっちを振り向いて、笑みを形作る唇。  ――――……ほんと、キレイに、笑うよな……。  なんか。  すげえ、威力……な、気がする。  なんだかなあ。  欲しかった、笑顔だから?  先週の祥太郎との会話が頭を過ぎる。 「あれ? じゃあさ、その人が、すげえ褒めてくれて、ニコニコしてくれたら、好きなの?」 「……ありえないから、考える必要なし」  あん時はありえないと、思ってた。  なのに。 「三上? 目あいてるけど、寝てる?」 「……あ、いえ。 あと少し、です」  言うと、あ、起きてた、と笑う。  クスクス笑ったまま、また窓から外を見てる。 「――――……」  なんか。  ……マジで、なんか、ヤバいから。  ……ちょっと、笑わないでくんねえかな。  

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