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第16話◇来て良かった。

 謝罪先の会社について、受付の人に案内された。  応接室の前で待ってた奴が、先輩を見て、笑った。 「やあ、渡瀬君」  どんな奴が相手だと、思っていたら。  多分若い頃は色々派手に遊んでただろうなというイケメンなオッサンだった。40前後?てとこかな。  左手薬指には、指輪がはまってる。  は? 何、結婚してんのに、先輩を狙ってンの?  ふざけんなよ。  狙われてる云々の話を聞いた時は、部長の気のせいというか、取り越し苦労なんじゃねーかと、思っていた。だからそこまでは、警戒せず、ただ、部長がそう言うからには何かはあるんだろうかと思ってはいたが。 「木原さん、申し訳ありませんでした。こちらの書類の手違いで、ご迷惑をおかけしました」   先輩がそう告げて、きっちり頭を下げてる。慌てて一緒に申し訳ありませんでしたと言って、頭を下げる。 「いいんだよ、悪かったね、遠くまでわざわざ。私は別に来なくてもいいと言ったんだけどね」  ……は? 部長の話じゃ、先輩をよこせって聞かなかったらしいけど。  頭を上げて、みたいに言われて、ゆっくりと顔を上げると。  オレの目の前で、とりあえず中へどうぞ、なんて言いながら、先輩の背中に触れた。  つか――――……触んな。  要るか、その手。  触んじゃねえよ。  後ろから蹴りを入れてしまいたいのを、かろうじて耐える。  結構大手の取引先……。さっき先輩が言ってた。  ――――……この謝罪時間さえ済めば、こんなおっさんからは離れられる。  後数分のはず。 「うちは本社がこっちだから、戻れたのは良いんだけど――――……こっちには渡瀬君、居ないからねえ」  ――――……キモ。 キモすぎ。  先輩はさりげなく距離を取りながら、そんなキモイ発言にも、うまく返事をしている。  とりあえず部屋に入ると、そこからは、まあ、向かい合わせて座ったから、先輩に触られる事はとりあえず無くなったが。  今回の手違いの説明を、先輩がうまく話しながら謝ると、そいつは、もうそれは良いよ、分かったから。と言う。  ここまでで、先輩がわざわざ東京からここまでくるような理由は、1個も見つからない。  やっぱり、支社の奴で全然良かったと思われる。  マジでこいつ、先輩に会いたかっただけか?  ……部長、さすがだ。ついてきて良かった。  オレが居なかったら、こいつ、先輩の隣に座りかねない。  そこからしばらく、普通にやりとりが終わって。  とりあえず謝罪も終わったし、あとは、帰るだけ。  もう触らせないように、オレが、間に入ってやる。  と思っていると。 「あ、渡瀬君、ここの工場見ていくかい?」  は?   何、言い出しやがった? 「良いんですか?」  とか、先輩も言ってる。  ……ていうか、先輩は、無下に断る訳にもいかないから、そう言ったのは分かってるけど。 「前の工場より改良された所もあってね」 「そうなんですね。ぜひ」 「じゃあこっちの資料の訂正については、そこの君、うちの担当と一緒にしてもらえる? 今担当を呼ぶから」  …………は?  それ、今、オレに言ったの?  資料の訂正なんか、そっちの担当でやりやがれ。 「三上、頼める? オレちょっと、工場見せてもらってくるよ」  何いってんの、あんた。 「いや、出来たらオレも、工場見てみたいです」 「え、見たいの?……木原さん、良いですか?」 「んーでも前の工場も知らないし、見ても面白くないと思うけど」  あくまで、先輩と2人になる気だな。  ぜってー、無い。 「いえ、ぜひ。一緒に見たいです。書類はその後で、先輩にも居てもらった方がいいので」  奴は、ち、と舌打ちでもしそうな顔でオレを見てるが。 「なんかやる気だな、三上。 木原さん、一緒に良いですか?」  先輩はまた綺麗に笑って、オレを見て、そして奴を見上げた。 「……もちろん」  先輩の笑顔には勝てなかったらしい。  渋々頷いてるが、先輩はそこらへんは鈍すぎるらしく、良かったな三上、ちゃんと勉強していけよ?なんて、言ってる。  ――――……先輩、これ、オレでも分かるわ。この人があんたを狙ってんの。 部長が、先輩はするするうまく避けてるとか言ったけど。  ……分かって避けてる訳じゃなさそう。  ただちょっと、距離が近いかな? くらいで離れてるだけっぽい。  背中に手を置かれても、別に平気な顔してるし。  …………ダメだこの人、鈍すぎる。  部長、オレ、絶対守りますから。  遠い部長に、誓いつつ。  オレは先輩の隣に並んだ。

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