17 / 270

第17話◇

 あの後、工場を見に行ったは良いけど。  ひたすら邪魔してるのに、ほんと、あいつ、しつこすぎて。  どーにか2人になろうとしやがるし、この人何の疑いも持たないし。  もう思い切り、「先輩についてかないと何もできない後輩」風に張り付いた。  この後、ご飯でもどう?と先輩に言ってきやがったのも、「いいですね、せっかくだし」とか普通に受けようとしているし。しかも、どう聞いてても、2人で、という誘いだったし。昔の話とかしながら京都の美味しい店につれていってあげよう、的な。  もう最後は、オレは急な体調不良作戦を実行して、先輩も帰らせる方向にもってく事にした。とりあえず、京都の奴だし、ここさえクリアすれば、もうどうでもいいと思ったから。  あれが、東京の奴でこれからも先輩に絡むつもりなら、どんな力を総動員してでも、先輩の近くから、排除するところだが。  新幹線で2時間もかかるとこに居る奴だし、今そこまでしなくてもいいかと思い、何とか、具合悪くなってすみません風を最後まで装って、先輩を守るミッションを完遂した。  奴は渋々だったが、先輩は、具合悪いオレをひとりにはできないからと、やっと断って、ようやく帰る事になり、迎えに来たタクシーに乗り込んだ。  ぐったり見せていたオレは、奴が見えなくなってから、深いため息とともに姿勢を直し、天を仰いだ。 「――――……?? 三上?」 「――――……はー……。」 「……三上、何か、怒ってる?」 「……別に怒ってないですけど」  もう一度、深いため息をくと、先輩が、なんだよ?と苦笑いしてる。 「……先輩さ、こういっちゃ、何なんですけど――――……」 「うん?」 「……バカ、なんですか?」 「――――……は?」  先輩、さすがに、後輩からのいきなりのバカ発言に、ぽかん、として。  その真意を測ろうと、首を傾げてオレを見つめてくる。 「……どー見たって、あやしく2人きりになろうとしてんの、気づかないんですか?」 「……あやしく2人きりって……」  ぷ、と先輩が笑う。 「三上何言ってんの? つかお前、具合悪いのは平気なのか?」 「――――……っ」  ああ、もー……。 「仮病ですよ。オレ、すげえ元気です」 「……ん??」  きょとん、として、先輩がオレを見つめる。 「そうでもしねーと、あいつと夕飯行くとこだったでしょうが」 「――――……え、なんでそんな、嫌がってんの?」  タクシーの運ちゃんが居るので、そこまでは言いたくない。 「後で話します。……とりあえず、飯食うとこ、決めてください」 「……なんか、そういう、意味わかんない事言う感じ、なんか志樹に似てるなー? そんなとこ、似てるとか、変なの……」  ……似てるとか、変なのとか、言われたくない。  変なのは、あんただ。  ――――……つか、兄貴も、この人のこういうので、もしかして、苦労した経験あり??  ……てことは、この人って、結構そうやって狙われるって事か? 「てか、ごめん、オレ車でスマホ見れない」  ……そっか、酔うんだっけ。  ……なんか可愛いな。 こんなキレイなのに子供みたいな……。  ――――…………だから……オレ!いい加減にしろ。 「……じゃあオレ調べます。何食べたいですか?」 「三上は?」  ……絶対そう聞くと思った。 「オレ、なんでも良いんで」 「じゃあ……湯葉とか豆腐料理とか。そう言うのがいい」 「あーいいですね。美味そう」 「あと美味しい酒が飲めるとこ」   ふふ、と嬉しそうに笑う。 「……了解です」  検索して、色々探しながら。  ――――……とりあえず、守るミッションは終えたし。  オレの仕事は、終了。  ほっとしたら、思うのは。  もう完全に、何のわだかまりもなく、楽しそうに微笑むのを。  見てるこっちが、まだ動揺しまくってて。  ……なんか。  ほんっとに。  嬉しそうに笑うのとか、勘弁してほしい。  テーブル席だと向かい合っちまうから、カウンターにしようかな。  それなら、顔見なくても済むし。  意味の分からない理由で、カウンターのある店を探してしまう自分。  なんかもうあのキモイオッサンの相手してる時から、蹴り倒したいのすげえ我慢してたし。  今もすげえモヤモヤするし。  ――――……なんか、どっちにしても、この人の側に居ると、モヤモヤするってことなのか?  タクシーの中は静かなので。  気付かれないように、静かに、長いため息を、ついた。

ともだちにシェアしよう!