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第18話◇初・プライベートで食事

 結局タクシーで店の前まで来て、席に着いた。 「何でカウンターで予約したの? テーブル席もあるじゃん?」 「……別に」  あんたの笑った顔、真正面から見つめながら食べるの、  なんかすげー落ちつかなそうだったから。  とは、言えない。 「まあいいけど……」  上着を脱いで、先輩はネクタイを少し緩めて、ボタンを外した。   「…………」  着崩すところ、初めて見たかも。  ――――……あのキモイおっさんじゃねえけど……。  ……何で男のくせに、いちいち目を引くっつーか……。 「三上って、志樹と、会社継いでくの?」 「さあ。――――……とにかく親父が倒れて、兄貴が引き継ぐから、手伝えって言われたんで」 「仲良いんだね。嫌だーとかも無く、素直にそうしたんだ?」 「仲良くはないです。兄貴、昔から、なんか逆らえなくて。表向き怖くないんですけど、裏側から怖ぇつーか……」  そう言うと、先輩は、ぷ、と笑い出した。 「分かるなあ、底知れないよな、志樹って。面白いから一緒にいたけど」 「あれ、面白いって、先輩相当ですよ……」 「まあ仕事仲間としては、すげー尊敬できたしな」  そこに、最初に頼んだビールが運ばれてきた。 「じゃあ。――――……何に乾杯しようか?」  なんかものすごく楽しそうに、キラキラした笑顔で、オレを、すぐ近くから見上げてくる。  ……これ、真正面に座るより、断然近いんじゃ。  横を見なきゃいいと思ったのに、こんなに近くで、まっすぐ見上げられたら、超至近距離で見つめ返す事になってしまう。 「……ちょっ、と、待ってください」 「え?」  先輩と逆方向を見回して、店員を発見。  立ち上がって近づいて、もしテーブル席が空いてたら、移動させてくれないか頼んでみる。ちょうど一席今空いたからどうぞ、と言われた。  ……マジ、良かった。 「三上何だよ??」 「テーブル席、移りましょう。荷物だけ持ってあっちにって」 「ええ? いいのに、わざわざ。もう座ってたし」  さあ飲もう、としてた先輩は、すごく不満そう。  ぶつぶつ言いながら、移動した。  すぐに店員が飲み物や前菜を運んできてくれる。 「もう、なんか泡が消えた気がする! 三上、意味わかんないな。なんなの? 移動するにしても乾杯して飲んでからにしろよ」  ……怒ってる。  でも。  なんか今まで、無表情だった、この人と比較してしまうと。  なんか、ぷんぷん怒ってる顔まで、可愛く見えるとか。  …………病気か、オレ。 「すみません。 ……何に乾杯しますか?」  そう言うと、すぐに、怒った顔を解いて、そうだなあと考えてる。 「……じゃあ、オレ達、今日から、ちゃんと知り合おう記念で」 「――――……何すか、それ」  そんなニコニコして言われると。  ――――……脱力しか、できねえし。  はー、とため息をついたら。  また、にこ、と笑われる。 「昨日までのは、仕事だけの関係だったけど。 今日からは、ちゃんとさ。仕事仲間としてというか。人としてちゃんと付き合お、て事で。かんぱーい」  言われて、グラスを静かに合わせる。 「オレ、人生で、お前だけだから、あんな態度で接したの」 「――――……はあ」 「あー、マジで辛かった」  ぐびぐびぐび。  一気にグラスを飲み干して、おかわりをしてる。 「三上も飲めよ」 「はいはい」  もういっそ、酔ってしまいたい。  なんかこの人の、打って変わった笑顔で放たれる、強烈な言葉の数々を、ダイレクトに受けとめないように。  酔いたいけど。  ……つか、オレ、酒、強ぇんだよなー…。

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