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第19話◇

「湯葉、美味しい。 三上、この店すごい良いな?」 「良かったです」 「日本酒も美味しいし」  もう結構ご機嫌な先輩は、少し赤くなった顔に、ひたすらニコニコ笑顔を浮かべてる。  ――――……こっちは、なんだか、全然酔えない。  とりあえずネットで選んだ店、アタリだったらしい。  まあ、料理もうまいし、店の雰囲気も良い。 「美味しいて言えばさ」  ふと、思い出したように、先輩が言う。 「三上の友達の店。あそこ美味しいな」 「ああ――――……言っときます。喜びます」 「2回夕飯食べたんだけど……ちゃんと作ってる感じ」 「ですね、ちゃんと作ってますよ。レトルトっぽいのは使ってないはず」 「うん。美味しかった。また行きたい」 「……兄貴とですか?」  兄貴があの店に通うの、ほんとマジで勘弁してほしいんだけど……。  一瞬で、ものすごく、憂鬱になっていると。 「え? あ、志樹?」  意外そうな顔をして、先輩は、ふ、と笑った。 「たまたま先週と先々週は、一緒にやってた仕事があって、食べに行ったけど。オレ、今は三上と行こうと思ってた」 「――――……」  ――――……オレと、行こうと、思ってたの?  オレと。飯? 「だって三上はほとんど毎週行ってるんだろ?」 「……そう、ですけど」 「それについてこうと思ってたけど。……あ、つか。指導係一緒じゃ嫌か」 「そ、んな事は」 「あ、いいよ。友達の店だし。ゆっくりしたいよな。やっぱりやめと」 「行きましょ、来週」  先輩の言葉を、ものすごい食い気味に遮って。  そう言ったら。  きょとん、とした顔でオレを見て。  それから、クスクス笑い出した。 「何でそんな、すごい勢いなんだよ?」 「――――……」  確かに。  ……乗り出し過ぎた。 「じゃあ、来週、行く?」 「……はい」  オレ達が一緒に行ったら、祥太郎びっくりするだろうな。  ……いきなり行く事にしよ。 「先週、友達と居たよな」 「ああ、ちー……高校の頃の、後輩達ですね」  チーム、と言いそうになって、慌てて言い直した。 「仲良さそうだった」  クスクス笑う先輩。 「志樹が言ってたんだよね」 「何をですか」 「とにかく、人に懐くのも懐かれるのもうまくて、すげーモテる奴って」 「……兄貴の方が、モテますけど」  嫌味かな。 「あー、でも志樹のはあれだろ? 今も会社でそうだけどさ、カリスマっぽいというか……遠巻きに、みたいな。三上の事は、ほんとに好かれる奴だからって言ってたよ」 「……初耳ですね」 「あ、マジ? んー、まあ。……でも、言ってたよ。 だから、一緒に会社やってく、役に立つからって」 「役に立つ……」  何か、言い方が気に食わないが。  ちょっと初耳。  ていうか、兄貴、そんな事、この人に話すんだ。 「……兄貴と先輩って、すごく仲良いんですか?」 「仲いい……まあ、最初は仕事、ライバルだったんだけど、組ませた方がうまくいくって言われるようになってからは、ずっと仲間で――――……まあ、だから、仲は良い、かなあ……」 「……褒めるなとか、そんな依頼を2年間も聞くくらい、ですか?」 「あー。んー……それはさ、仲いいからってよりは――――…… なんか今後の会社とか、三上の立場的にとか……志樹の言ってる事、納得できたから」 「――――……」  何となく、何も返事を思いつかないまま黙っていると。  先輩は勘違いしたみたいで、ふと、視線を落とした。 「……んー…… やっぱ、三上って、オレの事、嫌いだったよな、ずっと」 「え?」 「オレだったら嫌いだもん。仕事厳しくて、話さないし笑わないし目も合わさない先輩なんて」 「――――……」  ……確かに。  …………嫌いだと、思ってた。  ――――……オレも、嫌いだから、別に良いって。  嫌われてても、オレも、嫌いだから、別に気にしないって、思ってた。  けど――――……。  実際どうなんだろう。
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