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第20話◇

 2年間、イライラして、モヤモヤして。  ――――……あんたのことばっかり、考えてたし。  祥太郎には愚痴りまくってたし。  でも。今となってみると。  ――――……笑った顔、向けて欲しいとか……多分思ってたし。  この人に、褒められたい、というか、褒められないまでも、認められたいというか。 少なくとも、仕事できないとは絶対に、思われたくない、というか。  そんな風に思って、2年間、頑張ってた気がする。  この人の仕事への姿勢とか、考え方とか、そういうのは全部尊敬、してるし。   「……オレ」 「ん?」  まっすぐに、目の前の整った顔を見つめる。 「理由が分からなかった時は嫌でしたけど。 今は――――……」 「うん。今は?」  ふ、と笑って。  ――――……キレイに、笑って。オレの答えを待ってる。  今は。  ――――……今、は。 「――――……好きに、決まってますよね」  素直に口にしたら、そうなった。  あれ。  ……なんかちょっと、オレ、変なこと言ったか?  先輩は、ものすごい、きょとん、とした顔でオレを穴が開く程見つめてから。ぷ、と吹き出して。  それから、更に、普通にあはは、と、笑い出した。 「何それ。っはは。 三上、かわいーな? 好きに、決まってるんだ?」  肩を揺らして笑いながら、あ、お店だった、と、口元を抑えてる。  ……つかヤバい。  好きに決まってるとか。  思うまま、言ってしまったら。  先輩は、まだおかしそうに、クスクス笑ってるけど。  ――――……なんかこの感情は。  ヤバい気がする。  好きに決まってるって、何だ、オレ。  アホか。  ――――……好きに、決まって……。  つか、オレ今、どんな意味で、この人に好きって――――……。  先輩として? 上司として?  ……じゃねえぞ、今の。  好きとか、言葉にしてしまったら、ヤバさに、内心すごく、焦る。   「――――……なんかさ、志樹が弟がって言ってるの聞いてたからかなあ。オレにとってさ。もちろん後輩なんだけど――――……なんか、三上の事、弟みたいにちょっと思っちゃっててさ」 「――――……」   「ほんとは、優しくしたかったんだけど。ほんとにごめんな? 悪かったよ」  やっと笑いを収めた先輩が、まっすぐにオレを見つめて、そんな事を言う。 「それは、もう謝ってくれなくて、大丈夫ですよ。……つか、兄貴のせいだし」  言うと、先輩は、ふ、と瞳を緩ませて、笑う。  ――――……つか。そんなのより。  オレ、あんたの弟じゃねえけど。  そっちに、なんか、ものすごく、ムカムカするんだけど。  これは一体。  いやそもそも、好きって、一体。  またしても、祥太郎との会話が浮かぶ。 「その人が、すげえ褒めてくれて、ニコニコしてくれたら、好きなの?」  あの時は、ありえないからと答えた。  ――――……ありえてしまったら。  ……好きに決まってるとか、今言ったよな、オレ。  ――――……しかも、なんか。  ものすごくヤバそうな意味、で、言った、気がする。  まあ当然だけど、まったく気づかず、楽しそうに笑ってる先輩を見て。  耐えきれず、メニューで顔を隠した。

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