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第26話◇
木の匂い。
いいなー、この風呂……。
寄りかかって、月を見上げる。
月が綺麗。
――――……そう言った、先輩のがキレイに見えた。
もうなんか、1人になって静かに考えると、すんなり認めてしまう。
あんな態度されて、嫌いだと思い込もうとしてたけど、今となっては心の中ではどうしても惹かれてたとしか、思えない。
嫌われていたんじゃないっていう事が分かって。
その、とんでもない、避けてた理由も分かって。
望んでた笑顔が、惜しげもなく向けられてきて。
――――……2年間の距離を、埋めようとしてるみたいに、楽しそうに話しかけてこられると。
ほんと。
――――……オレ、陽斗先輩のことが、好き過ぎるって、思ってしまう。
しかも――――……これって、先輩後輩の好きとかじゃねえし。
裸とか浴衣姿を意識して、首筋に反応して……って、
自分でもすげえヤバいのが、分かる。
オレ。そっちもイケたのか……。今まで生きてきて、知らなかった。
はーー、とため息をつきながら、お湯をすくう。なんかお湯が柔らかい、気がする。
そのまま何気なく、するりと、手首に触れると。
――――……おお? 超すべすべしてる。
あやしい思考が一瞬止まった位の感触に、自分で腕をさすってみる。
気持ちいいな、このお湯。
「みーかーみー」
がらがら、と急に引き戸が開いた。
もう先輩はすっかり浴衣姿。
ホッとするような。……残念な、ような。
でも、浴衣姿すらも、やばいんだけど……。
「なんですか?」
「まだ入ってる?」
「……ん、もう少し」
言いながら、腕を擦ってると。
先輩は、ふ、と笑った。
「すべすべだから触ってんの?」
「え?」
「今、外に出てから、腕に触ったら、超すべすべでびっくりした」
「……うん、ですね」
「もっとつるつるになってから出てくる?」
クスクス楽しそうに笑って、そんな風に言ってくる。
「そーですね、後少しだけ」
そう返すと、先輩は、何を思ったのか、とことこ湯舟に近付いてくる。
すとん、としゃがんで、浴衣の袖をまくると、ぽちゃん、とお湯に手を入れてくる。
「お湯がなんか、柔らかいよな?」
袖をまくった白い腕と、楽しそうな笑顔に、ドキ、として。
そうですね、と言いながら、先輩からは目を逸らして、お湯をまた両手ですくう。
「……あとでもう1回、はいろーっと」
お湯をクルクルかきまぜながら、先輩はそう言って、笑うと、ゆっくり立ち上がった。
「つまみ並べとくー」
そんな風に言いながら、先輩が姿を消した。
「――――……」
――――……うん。
好き、だな。オレ。
今まで絡まなかった視線と、今まで向けられなかった笑顔。
それがこんなに嬉しいって。
そっちは、今までの経緯から、納得できるんだけど。
――――……白い腕、掴んで、細い腰、抱き寄せて。
あの瞳を、もっと近くで見たい、とか。
首筋、噛みつきたい、とか。
こっちのヤバすぎる衝動は、もう、そういう意味の好き以外では、ありえない。
オレ、マジで、男イケたのかぁ――――……。
違うな、男というか、陽斗先輩。
先輩、そういう対象で、イケてしまうのか……。
はー。マジ、ヤバい。
しかもあの人。
さっきのおっさんの時も思ったけど。
自分がキレイなのとか。狙われてるとか、全然気づかない。
その上、距離近い。まっすぐ見つめるし。
――――……しっかりしろよ、オレ。
あの人の、自覚のない、行動に、のせられて、
絶対、変なこと、やらかすなよ。
自分にひたすら言い聞かせる。
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