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第30話◇

 先輩が隣に来てしまって、ドキドキしながらの時間。  早いような、ゆっくりなような。  変な感じで、時が過ぎていく。  もう早く寝てしまいたいような、  いつまでも、こんな風に、先輩の顔を見ながら話していたいような。  どっちつかずの気持ちでずっと、話していた。  今までの先輩は。  目も合わなくて、笑わなくて、仕事を教える時は丁寧だったけど、余計な話とかは一切しなくて。他の奴とばっか、楽しそうに話してて。  ……すげえムカついて、嫌いだと、思い込んでた。  今、目の前に居る先輩は。  すぐ隣に居るっつーのに、目をあわせすぎって位、合わせてくるし。  めちゃくちゃ笑うし。ずっと楽しそうに余計な話、してるし。  ちょっと酔っ払ってて、なんか、とろんとしてて。  そんな風に、見つめられると、マジで困るんですけど。 「先輩、ちょっと飲みすぎ」  先輩の前から、酒の缶を奪う。 「あー、お前、何すんの。先輩の酒を奪うってどー言う……」 「とりあえずちょっと水飲んで」  うるさいので遮って、水をコップに入れて先輩に渡す。 「……」  静かに水を飲んでるのが、ちょっと可愛く見える。  ――――……じゃねえだろ、ほんとに。  ため息をつきながら、オレは酒を飲んでると。 「……なあ、三上?」 「はい?」  なんか少し調子の変わった先輩の声。  ふと、視線を向けると。  はー、と息を吐いてて。少し着崩れてる浴衣が。  ……ちょっと、色っぽい。 「高校ん時の秘密って、なに?」 「え?――――……ああ、気になってます?」 「……うん。まあ、ちょっと。2人そろってだし」  先輩、可笑しそうにクスクス笑う。 「……まあ、良いんだけど。秘密って、言いたくねえから、秘密なんだもんな……」  笑み交じりではあったけれど、先輩が、少し、トーンを落とした。 「先輩も、何か秘密、あるんですか?」 「えっ。何で??」 「……なんかそんな言い方だった気がしただけ、ですけど」  言ってみただけだったんだけど。  ――――……そんなびっくりされると、もう、あるって言ってるようなもんだと思うけど。   「秘密っていうか――――…… 誰にも言ってない事が、あるってだけ」 「――――……それを秘密って言うんじゃないんですか?」 「……あ、そっか」  そういやそうだね、とか、笑ってる。  なんか、酒飲むと、幼くなるのか?  仕事教えてる時とか、取引先と話してる時とか、プレゼンしてる時のすげえカッコいい、嫌いと思いながら憧れてしまってたような先輩と、ここに居る先輩は、何だか別人みてえ……。  こっちも可愛いけど。と、もはや普通に思ってしまうオレも、実は結構酔ってるんだろうか。   「オレのは別に……どーしてもって程の秘密じゃないんですけど……」 「ごめん、良いよ」 「あー。一緒に、祥太郎の店行くなら、すぐバレると思うんで、言っちゃいましょうか」 「え、そうなの?」 「あそこに来る奴らは知ってる事なんで」 「じゃあ、全然秘密じゃないじゃん?」 「あー……まあ。 てか、会社の人には、隠しとこうかなと思う程度です」  ――――……じゃあ先輩のは、「ちゃんと誰にも秘密」って事か。  どんな秘密なんだ?  そっちのが、気になるけど。  

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