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第34話◇

「なー、三上ー? ある程度なら何でも聞くよー?」  良いと言ってるのに、先輩がしつこい。  ある程度って、一体何だ?  絶対酔ってる……。  これ以上聞かれてると、ほんとにヤバいお願いをしてしまいそう。  まあ、しねえけど。  でもしたくなる。  たとえば。  じゃあキスしてください、とか。  いやいや。……オレも少し酔ってるか?  結構飲んでるもんなー、寝ちまおうと思って。  それでも、全然酔ってる感覚は自分では無いけど。  ヤバいお願いとかが、浮かんできてるだけでも、ヤバいのか? 「オレ、願い事聞いてくれなくても、許してますから」  ……兄貴のことは許してねーけどな。  多分何も出来ねーけど、とりあえず次会ったら、絶対ぇ、すげー怒鳴ってやる……。 「三上ー、まだまだ写真が届くんだけど。すごいな、お前の友達……」 「え、まだ来てます?」 「うん。総長カッコいいとか、すごい入ってきてる。はは、今度また特攻服で走りましょうって言ってるよ?」 「絶対冗談ですよ。二度と着ませんよ」  あはは、と先輩が笑いながら、「写真ありがと」と言って、スマホを返してくる。 「着てるの見てみたいけどなー」 「本気で言ってます?」 「うん。まだ似合うんじゃない? 何年前?」 「高校生だから……7年前位ですかね」 「体形変わった?」 「背は伸びましたよ」 「あー、じゃあ着れないかー。残念」 「ほんとに残念ですか?」  苦笑いが浮かんでしまう。 「うん、残念」  クスクス笑う先輩に、さらに苦笑い。  スマホの山ほどの写真をざっと見て、「もう大丈夫だって。ありがとな」と送って、画面を閉じた。 「好かれてる総長だったんだなー?」 「まあ。仲はよかったですけど――――…… 族は族なんで。喧嘩もしたし、大勢で騒いで走るとか迷惑極まりなかったし。……ダメな事だとは思うんで……まあ、できたらばらしたくない過去、ですね……」  ……兄貴のは、隠しておこ。  オレがばらしたりすると、絶対ぇうるさい。 「それが三上の秘密なんだ」 「そうですよ。内緒でお願いしますね」 「うん。分かった」  ふふ、と笑って、先輩は、また酒に口を――――……。 「あれ、先輩、水にしてくださいって。いつの間に酒、取り戻してるんですか」 「良いじゃん、帰んなくていいんだしー。酔ったら静かに寝るからさー、許してよ」  クスクス笑って、オレが奪おうとしたグラスを、オレの手ごと押さえる。 「……っ」  いやいや、触んないで、マジて。  思わず、グラスを先輩に渡してしまう。 「ありがと、三上」  可愛く、クスクス笑ってるけど。  ……はー。ダメだもう。  早く酔っ払って寝てくれ。  いっそ、好きなだけ飲ませるか……。 「あ、そうだ。三上ー、願い事は? いっこ聞くってば」  また思い出したように言ってくる。 「まだ言ってるんですか……」  これだから、酔っ払いは……。  はー。 「じゃあさ、簡単なお願いなら言える? 今すぐかなえられそうなやつ」  だからさ、先輩。  ほんとにキスしてって、言うよ、オレ。  ていうか、むしろそんなの、エロい願い以外、一体、何が出てくんの?  一体、何なら今すぐ叶えてくれるんだ??  まったく叶えてくれそうなものが、浮かばないので、聞いてみる事にした。 「例えば、どんなのなら今叶えられるんですか?」  ほんと、何なら叶えられるって、言ってんの??  じ、と見つめると。先輩は、ふわ、と笑って、即答。 「んー、売店でアイス買ってきてーとか。つまみ増やしてーとか? それくらいならすぐ聞けるよ? だって、何も無いっていうからさ。かるーく叶えて、この話終わらせようかなって」  あはは、と笑ってる先輩に。 「――――……」  もはや、完全に脱力。  はー。なんだかなー……。  ――――……めっちゃ、可愛い願い事だった……。  逆に全く、そっち系が、浮かばなかった自分に、がっかりする。  爛れてんなー、オレ。   

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