36 / 270

第36話◇

「……三上はそういうの、強そうだよね」 「ん?……何ですか? 強そう?」 「そーいう、やる気……」 「やる気って……変な言い方しないでくださいよ」  何だそれ。  苦笑いしてると。  テーブルにくったりしながら、先輩がオレを見つめてくる。 「……キスしたいなーとかも、昔は思ったのにさ」 「……思わないんですか?」 「うん。思わないんだよね」 「んー……」 「ああ、別に出来るんだけどさ」  聞いても、返事に困るって言ってたけど。  確かに何と言ったらいいか、分からない。  相手がいないとかなら紹介するとかあるけど。  モテるのにしたくないとか。  ――――……うーん。 「……まあ。言っても仕方ないんだけどさ」 「確かに……そうですね。したくないんですもんね……」 「そうなんだよね。――――……でも、なんか枯れてるみたいで、やだ。オレまだ若いのに……」 「そうですね……って、先輩今いくつですか?」 「27……」 「……まあ、若い、ですよね」 「何。若くないと思ってる?」  何も言ってないのに、きっと睨んでくる。 「オレ何も言ってませんけど」  苦笑いで答えると、はー、とためいき。 「……三上ー」 「はい?」 「……眠い」 「――――……でしょうね」  ぷ、と笑ってしまう。  やっぱ、可愛い。  酔ってると、ほんと、可愛い。  普段の先輩は、可愛いってよりは、綺麗だし。ていうか、普通の人は、カッコいいと思うんだろうけど。  くてん、と柔らかい感じになってて、顔、とろんとしてて。  可愛いな。  あーもう、ダメだな。オレ。  ――――……本当に、この人が好きみたい。 「先輩、歯、磨いて寝たら?」 「うん。……そーする」  立ち上がって、洗面台の方に消えていった。  ――――……オレもみがこ。  少ししてついて行って、歯磨きをしてる先輩の前から歯磨きを取って、水に濡らす。  先に磨き終えた先輩が、先布団にいってるねーと、言いながらふらふら歩いていく。  磨き終えて、トイレを済ませて部屋に戻る。 「先輩、電気消します?」 「うんー……」  そんな声が聞こえたので、一番大きな電気を消して、端の小さな電気だけ残した。  布団の部屋に行くと、先輩が、布団に入らず、掛布団の上で俯せに倒れていた。 「先輩……布団入ったら?」 「うん、あとで……」 「このまま寝ちゃいそうですけど……」 「んー……」  絶対寝るだろ、これ。  隣の布団に座って、倒れてる先輩を眺める。 「――――……」  浴衣って。  ――――……マジでエロい。気がする。    もったいないなー。  そういう魅力、すげえあるのに。  オレのやましい想いは置いておくとして、女だって、この人に誘われたら、全然オッケイだろうに。断る女なんて、居るか?  ――――……キスもしたくないとか。  そう言う気にならない、とか。なんか、もったいない。  疲れてんのかな?  言っても仕方ないとか言いつつ、言ったってことは、やっぱり気にしてるんだよな。でも、機能が落ちてるとかならわかるけど、欲が無いって。どうにもできないんじゃねえ?   ――――……まあきっと、結構酔ってるから言えたんだろうけど。  この人、明日になったら、これ話したの、覚えてんのかな……。

ともだちにシェアしよう!