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第37話◇

「先輩、布団、入って」  トントン、と背中に触れる。 「ん……」  もう、それきり返事ない。  ……寝ちゃったか。  寒ければ、起きるかな。  そう思いながら。  ふと。  何気なく触れた、背中の感触に、手が、止まる。 「先輩……」  呼んでも、全然何も返ってこない。  ……マジで、もったいないなあ。  誰ともしたくないとか。 「……オレと、キスしてみますか?」  なんて。  本気で誘う勇気もなく、メチャクチャ小声で言った自分に、ちょっと呆れながら、手を離したその時。先輩が、んー??と、言いながら。ころん、と横向きになった。   「……いーよ?」  ……は?  固まってるオレの前で、先輩が眠そうな顔で、  でも、ムクムク起き上がって。  オレの方を向いた。 「……起きてたんですか?」 「なんか……呼ばれた気がしてなんとなく」  て言うか、そんなのより、今この人。 「先輩、今、何をいいよって……」 「キスしてみる? て聞かれたから。いいよって……」  ケロッと言われると、目が点になる。 「オレが相談したから、試しにってそう言ってくれたんだろ?」  ……いや。なんか違う。  ……オレのは完全に下心。 「……って、やっぱ、そんなの、変か」  くすくす笑いながら、先輩がそう言った。 「……なんか、考えてくれて、ありがと、三上」  そんなことを言いながら、先輩は仰向けに倒れた。 「……先輩、オレとキスできるんですか?」 「んー……別にできるよ……キスくらい誰とでも……て言うのはさすがに無理か。でも、三上は全然セーフ」  そんな事をのんびり言いながら、ふ、と笑ってる。 「セーフって……」  なんだかな、な言い方だけど。 「……ほんとに、してみます?」  こんな話に持っていけるチャンス。  もう一生、来ない気がして。  精一杯、軽い言い方になるように。言ってみた。 「――――……いいけど……お前、いいの?」 「オレも別に、キス位なら、誰でも」  …………な訳ねーだろ。  あんた以外、男とキスなんか、絶対ぇごめんだっつーの。  ……この人、意外とそういうの、緩いのか?  さっき小さい電気にしたせいで、見つめあう部屋の雰囲気が。  なんだか、あやしすぎる。    先輩がんー、と仰向けになったまま、返事を考えてる。  ほんの、数秒。そんな長い時間じゃないのに、永遠みたいに感じる。    先輩、なんて言うんだろ。  ――――……この人、ほんとに予想外な事言うから。  全然分からない。

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