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第38話◇

 むく、と起き上がって、先輩がオレを見つめた。 「……いーよ、キスしても」 「――――……いいんですか?」  ……ヤバい。  心臓が、めっちゃドキドキしてきた。 「あー。でも……どんなキスすんの?」  どんな?  どんなって? 「……エロいキス?」  ふ、と笑って、先輩がオレを見つめる。  なんか。  ――――……転がったまま適当に起き上がったりするから、少し乱れた浴衣から、足が見えるし。胸元も、開けてるし。  酔っぱらってるからか、少し赤いし、目は潤んで見えるし。 「やらしーなー、三上」  クスクス笑う。  絶対、からかってる。  ……つか、自覚なくても、もー、やらしいの、あんただけど。  自覚無いから、余計ヤバいのかも。  わざとやられてたら、退くもんな……。 「……どんなキスでも、いーならします」 「――――……え。マジで?」  ちょっとびっくりした顔で、先輩がオレを見てる。 「……んー。まあいいか。 オレ酔ってるし。お前も少しは酔ってる?」 「――――……オレあんま酔ってません」 「……あ、そ。なんか、不思議な? 三上って」  クスクス笑う、先輩。  …………オレが不思議なの??  オレにとったら、あんた、誰よりダントツ、不思議だけど。 「……しますか?」  そう聞くと。 「……あのさあ? オレにはちょっとお試しの意味あるけど、お前にメリットなくない? むしろほんとにいいの??」  ……オレにメリットありすぎだけど。 「ていうか、お試しの意味って何ですか?」  なんかちょっと気になって聞いてみると。 「んー。女の子にしたくないから、男とキスしたいかっていうお試し?」 「――――……は?」 「したくないなら、されるキスならいけるのかなーって、ちょっと今思ってて」 「……それ、今オレとしなかったら、いつか他の誰かと試そうかなと思ってます?」 「え? ……思ってないよ、だって、たった今思ったんだし。でもまあ。……三上、仕事の後輩だし、やっぱりやめといた方がいいかなーとは思ってるけど」 「オレとやめて、誰かと試します?」 「だから、考えてないって…… でも三上とするなら、学生ん時の友達とかにしてもらった方がいいかも、とは思いはじめたとこ」 「――――……何でですか」  なんかもう、めちゃくちゃ腹が立って来た。 「だって、今更思ったけど、職場の後輩だし……それに、なんか、志樹に殺される気がしてきたっていうか……」 「え?」  兄貴? ……つかこんな所にまで邪魔しに来るか。と、この件に関しては兄貴は何もしていないが、でもやっぱり、先輩との2年間の恨みが消えていないので、かなり腹が立つな。なんて考えていたら。  先輩がちょっと困った顔をしてる。 「……お前とキスしたとか。可愛い弟に何してくれてんのって……」 「ならないですよ」  逆に、先輩に何してンだって、殺されそうな気が……。  ……いや、どうだろ、あの人、そんなにそういうの、熱くねえからな。  あっそ、ふーん。で済むと思うけど。  ――――……つか。なんかもう。  ……面倒くせえな。  下心隠してすんのも、やんなってきた。 「……先輩」 「ん?」  ちょっと自分の中を整理する。  もう、肝据えて、言いたいこと、言ってみるか。

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