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第39話◇

「兄貴の事は無視で。――――……先輩がいいなら、オレ先輩にキスしてみたいんですけど」 「――――……ん?」  しばし沈黙の後、先輩がふ、と首を傾げた。 「したい、の?  オレと、キス?」 「……はい」 「してもいいっていうんじゃなくて? したい?」 「……」  もうなんか、隠すの面倒だし、頷いてしまうと。   「……なんかそうなると、なんかまたちょっと悩むけど」 「――――……先輩」  先輩の腕を、軽くつかんだ。 「……オレ、仕事の後輩ですけど。ここでキスしたからって、仕事に影響なんか出しませんし。ていうか、オレ、そういう経験多い方だと思うんで、今更キス位で、そんな動揺したりもしませんし。迷惑かけません」 「――――……」 「……色々考えて、あんたにキスしたいと思ってます。先輩も、キス、されてみたいなら、他の奴じゃなくて、オレで我慢してください」  何をこんなに必死になって、真剣に言ってるんだろうと、ものすごい思うけど。  案の定。  最後まで黙って聞いていた先輩が、あは、と笑い出した。 「ほんと、おもしろ、三上……」  まっすぐ、先輩がオレを見る。 「分かった。いいよ」  そう言った先輩は、オレに真正面に向かい合った。 「ん」  上向いて。  少し、目を伏せる。 「――――……」  すっげえ。 ドキドキする。  ヤバい位。  今更キス位って、たった今言った言葉、  この人に関しては全くハマらないけど。  この人にするキスが、動揺せず出来るとか。ないけど。 「――――……」  なんか昨日まで。  嫌いだと思ってこの人を。  何故か今は大好きになってて。  ……何でかキスしようとしてるとか。  正直、全然意味が分からないけど。  先輩の唇に、そっと、一度、触れた。 「――――……」  ゆっくり離したら、閉じてた先輩の瞳が、ふ、と開いた。 「……え。終わり?」  そんな言葉に、苦笑いが浮かぶ。 「――――……嫌じゃないです?」 「うん。ていうか、触れるだけのキスなんて、嫌な訳ないじゃん」  クスクス笑う先輩に。 「じゃあもう――――……オレの好きなようにキスしますよ」 「――――……」  ちょっとびっくりしたみたいな先輩の顔。 「なんか。急に、男の顔されると、びっくりするけど」 「――――……」 「……三上がいやじゃないなら、いーよ」  つか。  嫌な訳ねーし。 「――――……」  先輩の耳の後ろに手を這わせて、ぐ、と抑えて。  そのまま、深く唇を重ねた。  

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