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第47話◇

 その時。仲居さんが、そっと近づいてきた。 「昨夜お預かりしたお洋服です。ここに置いておきますね」 「あ。ありがとうございます」  先輩が、ぱ、と顔を上げた。  気を取り直して、笑顔でお礼を言ってる。 「無理言ってすみませんでした」  そんな風に言って、いえいえ、と笑顔の仲居さんと楽しそうに話してる。  なんかその横顔は。  一緒に営業回ってる時の、人当たりの良い、でもちゃんと仕事してますっていう顔と同じ。  ――――……こっちの先輩も、好きだけど。  オレも一緒にお礼を言った所で、仲居さんが居なくなって。   いつも通りの顔をしていた先輩が、ふーーー、と深い息をついた。 「とりあえず食べて、部屋で話そう。なんかこんなとこで話す事じゃない気がしてきた」  ……周りとは席離れてるし。オレは全然平気なんだけど。  先輩、真っ赤んなっちゃうからなあ。 「そうですね」  普通の顔で、もう一度食べ始める先輩。  ……先に食べ終わって、じっと見つめていると。 「……あんま見るなよ」  困った顔をして、視線を、ぷい、と逸らしてる。  ああ、なんか……。  マジで可愛いな。 ほんと、どうしようかな――――……。  そう。今日、オレ、この人と、観光するんだよな。  どこ、行こう。  すっげー楽しみ。  …………そういえば。  金土と泊って、日曜に帰っても良いって、部長、言ってたっけ。 「……先輩」 「うん?」 「――――……今夜も、一緒に、泊まります?」 「――――……っ」  とりあえず今は、普通に聞いただけだったのに。  先輩は、きょとんとした後。  かっと赤くなって。もうかなり俯き加減で、頬杖をついて口元を隠してしまった。 「……オレ今は、普通に聞いただけなんですけど…… なんか、想像、しました?」 「っし、てないっつの。 何も。何、想像したっていうんだよ」 「んー……例えば」 「わあ、何! っ言わなくていいから! ほんと、言わないで、もう、何なんだ、三上、ほんと、なんかもう……」  なんか早口で、ぶつぶつ言ってる。  ――――……ぷ、と笑ってしまう。  ああ、ほんと。  可愛すぎて、ヤバい。    その反応だと。  ……オレ、調子に乗るけど。  悪いけど。あんまり調子にのせると。  オレ、ほんとに止まんなくなるんだけど。  ……分かってねえよなー、絶対。    なんだかな、と思いながら、先輩が食べ終わるのを待って、食事の部屋を出ると、隣に土産物屋があった。 「三上、ちょっと寄りたい」 「いいですよ」 「今、朝食に出てた漬物、置いてないかなー……」 「あぁ。好きなんですか? 漬物」 「オレじゃなくて、母親が好きそうだから」  あーなるほど。  頷きながら店内を一緒に見まわしていると、目についたポップ。   「あ。これじゃないですか? 朝食の漬物ですって書いてありますよ」 「あ、ほんとだ。ありがと」  先輩がそれを手に取って、レジに行こうとするので。 「それ持ってますよ」  先輩が持ってくれていた服の入った紙袋を受け取って、レジに行く先輩を見送る。  こういう時は、ほんと、全然普通。いつも通りの先輩だな。  ――――……昨日の話になると。なんか。すげえ可愛くなってしまうのは、何なんだろうか、ほんとに。 「お待たせー。ありがと、それ」 「いいですよ、持ってます」 「……ん、ありがと」  ふ、と笑む先輩。  ――――……つーか。  ……昨日の話とかしてなくても。  やっぱり、可愛い。  昨日下手に、手をだしてしまったりしたせいなのか。  こんな普通の笑顔見て、キスしたいとか思ってしまうって。  いよいよ本気でヤバいな、オレ。

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