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第48話◇怯えてる?

  「三上、ありがと」  部屋に戻ると、先輩がオレの持ってた紙袋を受け取って、中を覗き込んだ。  テーブルの横に座り、オレの服と自分の服を仕分けている。 「これ、三上のな」  そう言って、座布団の上に重ねて置く。 「ありがとうございます」 「うん」  色々話す前に、着替えちまおうかなと思って、浴衣を脱ぎ捨てた。  シャツを着て、白のニットを着る。  ――――……自分が着てる感じが、白って。なんか、いつもの感じと違う。  ちょっと違和感を感じながら、ズボンをはく。ジッパーを上げながら、ふと、顔を上げると。 「……先輩?」  なんか、固まってる。 「どうしました?」 「――――……オレ、ちょっと……あっちで着替えてくる」 「は?」  服を持って、洗面台とバスルームがあるドアの向こうに消えてしまった。  え。ちょっと待って。  女子じゃあるまいし、男同士で着替える時、見えないとこ行く?  昨日風呂入る時は、何のためらいもなく、裸だったのに。  むしろ、隠された方が恥ずかしくなる。  ……もしかして、すげえ警戒されてるのかな?  ……脱いだら襲われるとでも、思ったのかな?  ……さすがにそれはしねーけど。  もしそんな風に思われてるなら、すげー嫌だな。  と悩みながら身支度を整えて、鏡の前に立つ。  まあ、違和感あるけれど。自分が黒をよく着てるっていう思いが無ければ、似合わなくはねえかな。  少しして、先輩が服を着替えて戻ってくる。 「――――……」  ああ、よく考えれば。  先輩が私服着てんの、初めて見るんだ。  すげぇ。  なんか貴重。  ……似合う。可愛いな。  ……まあ、普通の奴は、先輩の事は、カッコいいって言うんだろうけど。   「似合いますね」  すごい可愛いです、なんて言葉は、辛うじて飲み込む。  今そんなの口滑らせて言ったら、多分どっかに逃げられる。 「あ。うん。……ありがと。三上も、似合うよ」 「そうですか? 自分的には、かなり違和感ありますけど」 「黒が多いんだっけ」 「ん、そーです」  オレは着ていた浴衣を軽く畳んで、布団の近くに置いてから立ち上がった。  先輩の横を通り過ぎて、歯を磨きに行こうと思ったけど。  オレが、通り過ぎようとした瞬間。  びく、と小さく、震えた。  ――――……。  気づかないふりをして、洗面所に入って。  歯ブラシに歯磨き粉を付けて、口にくわえた。  んー……。  ――――……先輩、怯えてる??  無理強いしたつもり、無かったけど。  …………やっぱ、嫌だったのかな。  なんか朝起きた時よりも、もっとなんか、先輩が緊張してるような気がする。目が覚めて、色々考えたら、やっぱり、やばかったって、すげえ思ったのかもしれないか。  んー……。  どうしよ、観光。  ……あ、そうか。とりあえず、外ならそんな警戒しねーだろうし、一緒に観光して、やっぱ今日帰ろう。それで普通に別れれば、きっと、変な警戒されてびくつかれるなんて事は、なくなるか。  先輩ともう一泊、なんて思ったけど。無理強いはやめよう。  ――――……最初は、先輩をさっさと帰して、1人で誰か、イイ女引っ掛けて、とか思ってたのに。そんな気持ちは一切無くなってしまっているし。先輩と帰ろう。  ……また月曜から一緒に仕事なんだし、あんなびくつかせてたら可哀想だし。   しょうがねーな  ――――……楽しいとこ回って、帰るか。  どこがいいかなー。    そんな風に考えながら歯を磨き終わり、部屋に戻る。  先輩は、窓に立って、外の庭を見下ろしていた。  なんか、絵になる人だなー。  ……ほんと、綺麗。

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