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第49話◇意識?
「先輩」
「あ。お帰り」
歯磨きも終えて、部屋に戻ると、振り返って、そう言った先輩。
おかえりだって。 なんか、可愛い。
やっぱり、こうやって普通に話しかけてもらいたいし。
これ以上、警戒させるような真似は、しない方が絶対いいよな。
「――――……先輩、今日観光したら、帰りましょう。夕方位に向こう着く新幹線、取ってくれます?」
「え……あ、うん……」
「オレ取ってもいいですけど、昨日会員登録みたいのして予約しました?」
「――――……あ、もともと、会員登録してるから、オレ、取る、けど」
「けど?」
「――――……」
そのまま返事が無い。
オレは色々荷物を片付けつつ、ふと、振り返る。
「先輩?」
先輩、外の方を向いたまま、返事、しない。
――――……?
立ち上がって、先輩に近寄るけれど。
一応びくつかせないように、少し離れた窓際に立って、先輩の横顔を見つめる。
「先輩? どうか、しました?」
「――――……別に………庭、綺麗だなーと思って」
「ああ。……うん。そう、ですね」
――――……?
何だ?
「あの。――――……先輩、ちょっとこっち、向いてくれますか?」
「何で?」
「何でって……」
何でって。……何か、変だから。
「……あの。先輩。もしかして」
「――――……」
もしかしてとは思うけど、言って良いのか躊躇いつつ。
でも、とりあえず聞いてみる事にした。
「帰りたくないですか? オレと、今日、泊まる?」
「…………そ、んなこと、言ってない」
なんか。
声が。狼狽えた、ような。
「先輩」
一歩近づいて腕を軽く掴んで、自分の方に引いて真正面で向かい合う。
「――――……先輩?」
「……っや、だ、離せ」
そんな風に言うけど――――……。
のぞき込むと、赤いし。
「……先輩が、オレのこと怖がってるかと思ったから、オレ、帰ろうと思ったんですけど」
「――――……?」
先輩が、オレを見て、眉を寄せる。
「怖がってなんか、ない、けど」
「――――……オレが横を通るだけで、びくびくするじゃないですか」
「……っ怖いとかじゃ、ないし」
「じゃあ何なんすか?」
「…………」
また、俯こうとする。
思わず、頬に手を触れさせて、あげさせようとした瞬間。
また、先輩が、びく!と震えた。
あー……。
これって、怖がってるとかじゃなくて、もしかして……。
そっと、頬に、手を触れさせてみる。
すると。
おとなしくそのままになって。
困ったようにオレを見上げてきた。
「――――……緊張してる? 意識、してます? オレのこと」
「…………わか、らない」
「――――……」
「……昨日オレが変な相談しなきゃ、こんな、ことになって、ないだろ。……なんかよく、分からなくて……それに、お前もほんとはあんな事」
「先輩」
頬に触れた手の親指を、先輩の唇に押し当てて、黙らせる。
思う通りに、簡単に、黙った。
「……あのさ」
「――――……」
「……オレは、後悔してないし、またキス、したいし。……ていうか、先輩じゃなかったら、オレ、昨日もあんな事、絶対してない」
「――――……え」
かあっと、赤くなる。
このセリフで、赤くなるって。 なんかもう、都合のいい方にいくらでも解釈できそうだけど。
でもなんか混乱しまくりの先輩の。
あと、なんか結構色々不思議な回答が返ってくる先輩の。
この反応に、調子に乗るのはまだ早い。と、自分を落ち着けつつ。
「先輩、やっぱり、今日、一緒に泊まりませんか? 1日、観光して、過ごして、落ち着いて――――…… それで、もし……先輩がいいなら、オレは触りたいけど」
「――――……」
「やっぱりやめようって事なら、触りませんから。普通に泊って、普通に楽しんで、明日帰りましょう」
「――――……」
「とりあえず、今はそれでいいですか?」
「――――……お前、それでいいの?」
「はい。ちょっと落ち着いて、夜までに考えてくれれば」
先輩は、オレをじっと見つめて。
うん、と頷いた。
「じゃあ……もう一泊できるかだけ、聞いてくる」
「オレも行きますか?」
「良い。……待ってて」
先輩はそう言って、部屋を出て行った。
んー。
とにかく、先輩、可愛くてたまんねーけど。
……とりあえず。
まあ、一緒に観光、楽しむって事で、いっか。
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