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第50話◇観光1
「三上、あっち行こ」
めちゃくちゃ楽しそうに、笑顔で言う。
結局今日も、昨日の旅館に泊まる事になった。荷物を全部置いて、外に出てきて、しばらくして、いつも通りの先輩に戻った。
良かった。びくつかれると、ちょっと気を遣うし。
……なんか、触れたくなってしまって困るし。
――――……普通の先輩が、可愛いし。
最初にどこ行きたいですか?と聞いたら、迷わず「清水寺」と言った。まあ旅館から近いっていうのもあったけど、修学旅行で来て以来だったらしい。
「高校ん時に来た時さ。2泊3日で、京都と大阪と奈良も行ったから、超強行スケジュールで。移動だけで忙し過ぎて、よく覚えてねーの。大阪は、お好み焼きとたこ焼きを食べただけだったし」
「はは。何ですか、それ」
「楽しかった記憶はあるけどね。なんかあんまり覚えてないから」
「オレ、修学旅行は北海道だったんで、京都、初めてです」
「そうなんだ。じゃあ、いっぱい回ろうぜ」
めちゃくちゃ楽しそう。
さっき、通りがかりで買った、観光マップみたいなのを手に持ってる。
「先輩、そん時はどこに行ったんですか?」
「京都は、清水寺とお土産屋さん巡って、金閣寺も見たような……あ、なんかどっかで縁結びのお守り買った」
「縁結び??」
「そん時、班の女の子と付き合ってたからさ。一緒に買おうってなってさ」
「へえー。そういうの、買うんですね」
意外。
ああ、でも、高校生の時か。
きっと可愛かっただろう先輩が、女の子と一緒に縁結びのお守りを買ってる姿を想像すると、なんだか、あまりにも可愛い気がする。
ふ、と思わず、微笑んでると。
「旅行でさ。盛り上がってたから買ったんだけどさあ。……縁結びのお守りって、おそろいのとかだと、ものすごい可愛いんだよ。知ってる?」
「知らないけど、想像はつきます。でも可愛くないのもあるんじゃないですか?」
「彼女がさ、これが可愛いって選んだのがほんとに可愛すぎてさ。まあいっかって、買ってあげてさ。お揃いで持とうって事になったんだけど……」
「けど?」
んー、と先輩は眉を顰めて。
「オレがさー、そんな可愛いの、普段の学校の鞄につけれる訳ねーじゃん?」
「ああ。そうでしょうね」
「でもつけてって言うんだよね。オレと付き合っててお揃いにしてるって、皆に知ってほしい、みたいな……? よく分かんないんだけど、見えるとこにつけてって言われて」
ああ。……先輩と付き合ってたの、自慢したかったのかな。
と、すぐそう思ったんだけど。
先輩は。よく分かんないと、言ってる。
…………鈍そうだよな、そういうの。
何で仕事ン時は、あんなによく気が回るんだろう。
――――……自分の事に気が付かないタイプかな。
思うけど言わないで居ると、先輩は続ける。
「それで、オレは、鞄の中にならつけるよって言ったんだけど、それじゃ嫌って話になって」
「なって?」
「……そこら辺が原因で、なんかオレが面倒くさくなって…… 結局別れたんだよね、修学旅行の後に」
「縁結びのお守りで、別れたんですか……」
ぷ、と笑ってしまうと。じろ、と見られて。
「……まあ大昔の話だから良いけどさ」
先輩は、はあ、とため息。
「だからオレ、縁結びのお守りとか、信じてないんだよね」
「はー。まあ……オレはそんな面白エピソードは無いですけど、縁結びのお守りは信じてないですね」
「……面白エピソード言うな」
先輩のツッコミに笑ってしまう。
「三上、縁結びは信じてなくてさ。他のお守りは信じてるのか?」
「……まあ、そうかも。交通安全とか、普通のお守りは何となく」
「何が違うのそこ」
そんなとこ突っ込まれると思ってなかったけど、たしかに 何が違うんだろうと考えてみる。
「うーん……縁結びは、仲良く居れますように……て、そんなの祈らず仲良くすりゃいいじゃん、と思う、というか」
「……うん。それで?」
「他のは、オレ、誰かにもらう事が多かったから……親父とか。ばあちゃんとか。 そっちは、なんか、相手の事思って、渡すものでしょ? そういう気持ちで守ってくれるんじゃないかなーとか?……ですかね」
「へー。成程。なんか、分かった」
「分かりました?」
「うん。――――……三上が、なんか、良い奴なの、分かった」
クスクス笑いながら、先輩が言う。
「今のでそうなります?」
「人の気持ち、ありがたいって思うってことだろ?」
「………ああ。まあ。そうですかね」
そうなのかな?
まあ……確かにそうか?
とりあえず、先輩がなんかニコニコしてるので良しとして。
近づいてくる大きな門を見上げる。
仁王像が居る、門。
こんな観光名所に、先輩とオレが一緒に来てるなんて。
ほんと。
考えもしなかった。
それに。
――――……先輩に、あんな風に、触れる、なんて事も。
隣で、清水寺の説明を見ながら歩いてる先輩を見下ろす。
意外と、身長差、あるみたいで。
職場だと、なんだか、先輩が大きく見えてたんだけど。
――――……綺麗だとは思ってたけど。
こんなに可愛いとかは、思わなかった。
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