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第52話◇観光3
所々で写真を撮りながら、清水の舞台まで上ってきた。
「すげ――――……」
京都の町が見下ろせる。
すごい、景色だな。
「三上、こっち向いて」
京都の景色を背景に、先輩が写真を撮ってくれる。
「オレも撮りますよ」
「うん」
場所を交換して、先輩を撮る。
そのまま下を見ている先輩の隣に立って、その写真を見せる。
「良い景色」
「ですね」
ていうか。景色はもちろんなんだけど。
先輩の写真が良すぎる気がする。
「先輩って、なんかやってました?」
「何かって?」
「モデルみたいな仕事」
「やってたように見える?」
「今やってるって言われても、信じますけど」
「はは、何それ」
「この写真、そのままどっか出せそうですもん」
「そうかなあ?」
先輩はオレの手元のスマホを覗き込んで、んー?と首を傾げてる。
「ていうか、んな事言ったら、三上の写真だって」
ほら、と写真を見せてくる。
「オレのは別にいーですよ」
適当にチラ見して、さっきから何枚か撮ってる先輩の写真を眺めていると。
「オレの写真、そんな見なくていいって」
スマホに手が伸びてきて、隠される。
あ、恥ずかしいのかなと思って。
先輩に視線を向けると。
「も、写真しまえよ。景色見ようぜ」
そんな風に言って、視線を逸らす先輩。
頷いて、スマホをポケットに入れた時。
隣に居た女の子2人に、話しかけられた。
「あの、写真撮ってもらえませんか?」
「あ、いいですよ」
先輩、普通に愛想よく受けて、スマホを受け取ってるけど。
多分これは……。
何となく、黙ったまま、そのやり取りを眺める。
まあ、先輩は何も気づかず。
――――……何なら、さっき門の所でしてたやり取りの時と、先輩は何にも変わらないのだけれど。
何枚か写真を撮ってあげて、その子達に確認させて、ありがとうと言われた先輩は、いーえ、と笑顔でその子達から離れようとして。
また呼び留められてる。
だよなあ。
絶対、そうだと思ったけど。
こっちにもその子達の視線が飛んでくるけど。敢えて近くに行かず、後ろからやり取りを見守る。やっと今、それが誘われてると認識したらしい先輩は、初めてちょっと困った顔をした。
……鈍い。
ふ、と笑ってしまう。
笑った所で先輩がちょうど振り返って、オレと目が合うと、助けろよ、という顔で見つめてきた。
困ってるの可愛いけど。まあ……助けるか。
先輩に近付いて、ぐ、と腕を掴む。
「先輩。早く行かないと、時間が」
「あ。うん」
「ごめんね、オレ達、急いでるから」
女の子達に、にっこり笑って見せて。有無を言わさず。
そのまま、先輩の腕を掴んで、歩き出す。
少しその子達から離れてから、先輩の腕を離した。
「もう、ここ、良いですか? もう少し、景色見たいです?」
「ううん。違うとこ、行こ」
「はい」
「……急いでるって言っちゃったしさ。てかさー。三上、圧が強い」
「……そうですか?」
まあ確かにちょっと圧、かけたけど。
「三上が来て女の子達、何も言えなくなっちゃたし。ああいう圧ってさあ、族長ん時の――――……」
クスクス笑って言いかけた先輩の口を、ぱ、と覆う。
「声でかいし」
黙った所で、ぷ、と笑って手を離したけれど。
先輩が、何やら固まってる。
「――――……先輩?」
聞いたら、先輩は俯いて、言った。
「……悪い、今、あんまり触らないでくれる?」
「は?――――……あ、嫌、でした? すみません」
気安く触りすぎたかな、と思って。
小さくため息をつく。
んー。
難しいな。
何を話していいかちょっと分からなくて、しばらく無言で歩いてると。
先輩が、不意に、はあと息をつきながら、自分の額を、手の甲で擦った。
「先輩?」
「……違う」
「え?」
「……お前が今思ってるの、違う」
「……オレが思ってるのって?」
俯き加減の先輩に、少し首を傾げて、顔を見たいなと思った瞬間。
先輩は、ふ、と顔を上げた。
「……三上に触られるのが嫌だから言ったんじゃないから」
「――――……」
綺麗な瞳がまっすぐこっちを向いてて。
「……あ、そう、なんですか?」
……嫌じゃないなら。何だ?
「今お前が触ると、オレ」
「――――……」
「……昨日の、事、よみがえるから、ほんとに、無理」
「――――……」
また俯いてしまった、先輩の事を。
いますぐにでも、どっか連れ込みたいって、思ったって。
オレは、悪くない。
と。
……真剣に、思ってしまう。
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