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第53話◇観光4

   オレは、ふー、と息をついた。  多分、この人、何も意識してないで言ってる。  どっか連れ込むとかしたら、何で、てなる。  ……つか、煽ってるの、まったく意識もしないで、こんな風にする人、居るんだなあ。と逆に感心してしまう。  無意識の煽りというか。  ――――……こっちにとったらものすごい迷惑な気はするんだけど。  でもなんか、そんな風な先輩の事も。  ……ちょっと可愛いなんて思ってしまうあたり、もう重症。 「先輩」 「……ん?」 「ちょっと座りません?」  参道沿いに見えるカフェを指して言うと、先輩は、ちょっと笑顔になって、頷いた。  カフェに入ると、まだ午前中の早い時間て事もあって、とても静か。  着物姿の女の子に、奥の静かな席を案内された。 「外、すごい人ですけど――――……静かですね、ここ」 「ん」  店内を見回しながら、先輩が微笑む。 「何食べます? はい」  メニューを差し出すと。  一瞬で。 「わらびもちのパフェだって。絶対これ」  即決するのを見て、ぷ、と笑ってしまう。 「んー。先輩、他に食べてみたいのあります?」 「他? んー……抹茶レアチーズケーキかなあ」 「あぁ。これですか?」 「うん。それ」 「緑茶がついてくるから、飲み物はそれで良いです?」 「うん」  テーブルの上の呼び出しボタンを押す。  おきまりですか?とやってきた店員に、メニューを見ながら。 「わらび餅のパフェと、抹茶レアチーズケーキで」 「かしこまりました」  店員が居なくなり、メニューを隅に片付けていると。 「三上は、それで良かったの?」 「オレ別になんでも良かったんで。先輩が食べてみたいならそれで」 「――――……」 「え?何ですか?」  ぼそ、と何か言われて、聞き返すと。  先輩は、少しムッとしてる。 「……モテそう、三上」 「――――……そうですか?」  苦笑い。 「何でそれでそんなにムッとしてるんですか」 「……さあ。なんか、あまりにさらっとするから」 「別に、オレほんとになんでも良かったですし」  なんか、いまだムッとしてる先輩に、苦笑いしか浮かばないけど。 「そんなことより、先輩」 「――――……? 何??」 「さっきの話、なんですけど」 「……触るなって言った、やつ?」 「それなんですけど」  オレは先輩をまっすぐに見つめた。   「オレが今、人もいっぱい居る所で、先輩にどんだけ触っても、何も意図はないですから。――――……あんまり、意識、しないでください」 「――――……」 「でも――――……でも、2人になって、触るのは、意味ありますよ」 「――――……」 「昨日のを思い出すとか。そういうのって……オレにとって、めちゃくちゃ意味があって。誘われてるのかなって、思っちゃいます」 「ち」 「違うのは分かってます。先輩、きっと考えずに言ってるんだろうなって、分かってるけど――――……オレは、そう思います」  囁くような声でもお互い聞こえる位、店内は静か。 「……陽斗さん」  敢えて、名前を呼ぶと。  ふ、と、また違った顔で――――……ちょっと緊張して、こっちを見上げる。二重の綺麗な瞳が、余計大きくなる気がする。  は。  ……ほんと、反応、可愛い。 「……無理なら、陽斗さんとは、二度と、呼びませんから。無理しなくて、大丈夫ですよ」  ほんとは。  逆のことを言いたいけれど。  何となく、そうじゃない方が、良い気がして。  そう言った。  何を思ってるんだか、心なしか少し赤くなって。  先輩は、ん、と俯いた。  その俯く、のがさー。  ――――……可愛く見えるって、オレがおかしいのか。  それとも、これは誰から見ても可愛くて、先輩がいけないのか。  もう、深くため息をつきたい気分。  ――――……近すぎて、ため息も付けないけど。

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