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第54話◇観光5

 そこに、頼んだものが運ばれてきて、また空気が変わる。  目の前に並んだ、上品で美味しそうな和のスイーツに、先輩がすごく嬉しそう。  昨日も思ってたけど。 「……先輩甘党ですよね」  クスクス笑ってしまう。 「うん、そう。いただきまーす」  素直に頷いて、わらび餅を口に入れて、「ん」と顔が綻ぶ。 「溶ける」  嬉しそうに笑うの、ほんと可愛い。  ――――……なんか。  こういう先輩、ずっと見ながら。  ずっと、こんな風に一緒に居れたら。 すげーいいけど。  ……この人は、男じゃダメかな。   つか、オレを好きな訳ではないだろうし。  昨日は酔ってて、キスしたら、思ってたより気持ち良くて。  ……なんか勢いでそのままいっちゃって。で、今日もその時の気持ちよさとか、恥ずかしさとか、そういう感覚をひっぱって、ここまできちゃってる。  ……てとこな気がするし。 「三上も食べるか?」 「じゃ一口下さい」  あ、と口を開けると。一瞬、躊躇ったらしい先輩が動きを止める。  ――――……ちら、と店内見回して。誰も居ないからいっかと、判断したんだろう。ぱく、とオレの口にわらび餅を入れた。 「……あ、ほんとに溶けますね」  これは素直に、うまい。 「だろ?」  めちゃくちゃ嬉しそうな先輩。  ああ、ほんと。  だめだなー。  ……可愛い。 「あ、先輩、ケーキどうぞ」 「え。三上食べてからでいーよ」 「いいですよ、好きなだけ食べて」 「……全部食べるよ?」  言って笑う先輩に、ぷ、と笑って。 「別にそれでも良いですけど」  と言うと。先輩は苦笑いを浮かべる。 「三上が先に食べて、感想言ってよ」  そう言うので、とりあえず、一口食べてみる。 「んー……下のクッキー生地がごまの風味がしますね。めっちゃ和風。レアチーズケーキに抹茶、どうだろうと思ったけど。すごく合います。甘すぎなくて、美味しいです」  そう言ったら、先輩は、あはは、と笑った。 「すっごいよく分かった」 「食べますか?」  さく、と食べやすい大きさでフォークに挿して、先輩に差し出してみる。  また、一瞬躊躇ってから。先輩は、口を開けた。   「――――……」  多分、恥ずかしいなと思いながら口を開けたんだろうと思うけど。  口にケーキが入ったら、すぐに、美味しさが勝ったみたいで。  めちゃくちゃ笑顔。 「すっごい美味しい。三上の感想、ばっちり」  めちゃくちゃ嬉しそう。  可愛すぎるんだけど。 「残り、全部食べてもいいですけど。食べます?」 「こっちもあるからさすがに全部は……」  クスクス笑う先輩に、じゃあ半分あげます、と言って、少しだけ食べる。  ――――……なんか、カップルみたいな事、してると思うけど。  ……全然きっと、何も意識してねえんだろうな。  ――――……この人、女の子にもこれで来たのかな。  勘違いする子、多かっただろうなー。  ……って、合コン行くと、ものすごいモテるって、そう言う事なんじゃねえの。  見た目がこれってだけでモテるだろうに。  こんな顔で、何気なく優しくして、こんな風に相手をじっと見つめてたら、そりゃ、勘違いする子も続出しそう。  この人が、話す相手をまっすぐ見つめるのって、いい所だけど。  ――――……この瞳は、ちょっと、破壊力がありすぎかも。  オレ、昨日までむしろ目線、外されてきたから、まだ大丈夫だったけど。  ――――……じっと見つめられてると、ほんと、惹きこまれてしまう。  ……なんだかなあ、この人。  何かそう思うと、昨日キモイと思ってたあのオッサンも、微妙に被害者なのかなと思ったりもする。 「なんか口の中で溶けて、すごい幸せなんだけど、どーしよう」  とか、もはや、オレではなく、わらび餅としゃべってるし。 「三上、明日もどっか、京都の和風スイーツの美味しいの食べてから帰ろうよ」 「……はいはい。いいですよ」 「さっき買ったパンフレットで、おすすめ探そ」  ……はー。  可愛いし。 ほんと。  昨日の蕩けてエロかった人とは、別人みたいだ。

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