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第55話◇観光6

 わらび餅を満喫して幸せそうな先輩を、眺め過ぎないように、眺めながら。  オレは、お茶を口にした。  この人、全然意識してないみたいだけど。  その「明日食べるスイーツ」の前に、今夜オレと過ごす夜が、あるんだけど。分かってんのかなあ。  ……分かってないな。  今この人、完全に忘れてるよな。  ――――……大体分かってきた。  別にすべてに、鈍いわけじゃない。  仕事の時の気配りなんか、天才。  デキる人。な事は間違いない。  ――――……ただこの人。  自分に対する恋愛っぽい感情に、鈍感なんだ。と思う。  あからさまに誘われるなら、それについては、「モテる」と表現してるけど、それだけで。  あからさまじゃなくて、モテてる事はきっと他にもたくさんあって、普通の人なら、好かれてると気づくだろう事、まったく気づいてないに違いない。  そんなにはモテない、って、きっと思ってるんだろうなあ。  軽いアプローチ位じゃ、そんな訳ないし、気のせいだ、位の。いや、気のせいとも認識すらしてないできたに違いない。  密かにモテてアピールされてるけど、ある意味鉄壁のスルーで、諦めた奴らがきっと、先輩の周りにはいっぱい居るんじゃないのかなと、勝手に想像してしまう。  相手からしたら、ここ迄アピールしたのにスルーって事は、そういう事だよね、諦めよう……てなもんだろうな。  ……鈍すぎる。  しかも、鈍いくせに、変に、こっちの気持ちを煽ると言うか。  ――――……わざとだったらもう、誰もこの人に勝てないと思うけど。  きっと、わざとじゃない。  ……いや、ワザとじゃないから、余計勝てないのか? 「……先輩」 「うん?」  ちょうどわらび餅を食べ終えて、お茶を飲んでる先輩が、オレを見つめた。  試しに聞いてみる事にした。 「先輩、合コンではモテるって言ってたけど」 「うん?」 「学生時代とかは? どうでした? 超モテました?」 「……何回か告白されたけど……そんなにいう程モテてないし。合コンってなんかすごいよな。あの場は独特。オレでもすごいモテるし」  オレでもモテる、って。  オレでも、って。  ……絶対的にモテると思う人が、「オレでもモテる」って、発すること自体、なんか違う。  ずれてんな……。  と思うのだけれど。 だめだ。そういうずれてて阿保っぽいとこまでが、可愛いとか。オレ、結構本気でやばい。 「あ、ケーキどうぞ」 「いいの? 食べちゃって」 「全然良いです。オレむしろ、スイーツとかって一口食べれば満足な感じなんで」 「ええ。もったいな……」 「一口目が一番美味しくないですか? その後は段々甘さが気持ち悪くなってくるっていうか」 「それは無い」  言いながら先輩、いただきまーす、と嬉しそうにケーキを口にした。 「……無さそうですね」  笑顔が可愛すぎて、ふ、と笑ってしまう。 「ていうかさ。――――……三上こそ、すごいモテるだろ?」 「……モテそうに見えますか?」 「うん。見える」  ケーキ頬張りながらも、即答。  モテそうに見えるっつーのは良い意味だろうから。  まあ素直にちょっと嬉しいけど。   「オレは――――…… まあ総長時代は、冗談みたいにモテましたけど」 「そうなんだ」  くす、と笑う先輩。 「まあ、昨日の写真は、確かにカッコよかったから分かる」 「――――……つか、あの写真の事は、忘れていいですから。いや、もう綺麗に忘れてください」 「あの写真、送って。たまに見たいから」 「絶対嫌です」 「なんで? いーじゃん」 「無理」 「カッコいいのに」  言いながらクスクス笑って、オレを見てる。  ――――……面白がってるし。  やっぱり見せなきゃよかった。  そう思いながらも。  ――――……なんか、楽しそうな先輩は、ほんと、可愛くて。    その唇、塞いで、キス、したいなあ。  とか。  思考がめちゃくちゃヤバいオレは。  ふ、と息をついた。  

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