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第56話◇観光7

「パンフレット見せてください」  先輩が、ケーキを食べてるのを見てると、変な気分になってきそうなので、先輩がウキウキ買ってたパンフレットを借りて、ぺらぺらめくる。  観光名所、多いな。  この辺で回るか、少し遠くまで行くか……どっちでもいいけど。 「先輩、他に行きたいとこありますか?」 「んー……静かな寺院とか、行きたいな。庭が綺麗なとことか」 「なるほど……」  静かかどうかは分かんないけど、寺院はかなりあるな。  有名なとこは混んでるのかな。土曜だしな。  もう少し遅く来てれば、桜が綺麗だったろうけど。  その頃はきっともっと人が多かっただろうし。  てことはちよっと空いてる時期なのかなー……  なんて思いながら、パンフレットを眺めていると。  視線を感じて、顔を上げた。  目が合うと、先輩が固まる。 「……? どうしました?」 「……いや、別に」 「――――……」  不思議に思いながらも、オレはまたパンフレットに視線を落とした。 「先輩、人力車とか、乗りたいです?」 「うん、乗れる場所が遠くないなら」 「ふーん……」  ちょっと乗ってみたいかな。  そしたら、それに乗って行けるとこ……。 「……」  また視線を感じて、上向くと。まだバッチリ目があった。 「何で、三上、突然こっち向くの」  そんな風に怒られる。意味不明。  何でって。 「視線、感じるから。 何で見てるんですか?」 「いや。なんか……」 「なんか?」 「――――……顔、すげー整ってるなーと思って」 「――――……」 「下むいてると、余計なんかいつもと違う感じでみえるなーと思って、見てただけだよ」  意味ない。  のは分かってても――――……。 「先輩、オレの顔好きてこと?」 「――――……いや、べつ、にそういう……??」  ち。この人。  やっぱり何も考えずに言ってたな……。  オレに聞かれて、そういう訳じゃないって言おうとしてから、あれ、そういうことなのかな、なんて。――――……狼狽えてるとしか思えない顔で、口元を手で隠して、横を向いてしまう。 「……先輩さ。もうちょっと考えて喋ってくれませんか」 「え?」 「――――……先輩は意味なく言ってる言葉でも、こっちは、めちゃくちゃ意識するんですけど。 ていうか、そんなの言われてたら、意識してなくても、意識し始めちゃうというか」 「――――……」 「……そんで。オレの顔、好きなんですか?」 「――――……」 「好きだから言ったんです? それともなーんも考えないで、整ってるなーていう、ただの感想? まあ。整ってるつーのは、嬉しくなくは、ないんですけど……」  ふ、と息をついてしまう。  困った顔してる先輩は、ふ、と顔を戻して、オレを見つめた。 「整ってるなーっていうのは、初めて見た時から思ってたし。 志樹と2人で、迫力あんなーとも思ってたし……」 「……ただの感想ってこと?」  まあ、そんな意味、無いか。  ……ていうか、なんかもはや、惑わされてる気がしてきたけど。   オレが悪いの?? 「――――……ただ……昨日めちゃくちゃ近くで顔見たから。なんか……改めて見ちゃってたというか……」 「――――……」    昨日めちゃくちゃ近くで顔見た、って。それって。  布団の上で? 「――――……っ」  ……はー。  もうオレ、反応、すんのやめよ。  すげー疲れた……。  オレは無言で、パンフを顔の前に立てて、肘をついた。完全に先輩から顔が見えなくして、しばらくそのまま、パンフを眺めた。  先輩も、何を考えてるのか、何も言ってこない。  しばらく2人で、無言で過ごした。

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