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第57話◇side*陽斗 1

 2年前。  志樹に、とんでもないこと頼まれた。  マンツーマン指導に入るのは、初めてで。  直下の、後輩が出来るってワクワクしてた時に。  しかも志樹の弟とか。めっちゃ丁寧に育ててあげよう、と思ってたのに。  仲良くなんなくて良いとか。  仕事だけ、叩き込んで、とか。  絶対やだって言ったけど、社長が倒れて、色々抱えてるだろう志樹の頼みだったし、もう、嫌われてもしょうがないと、腹をくくって。  仲良くしないように。  つまりは甘やかすなという事だったから、そう務めた。  三上は、すごく優秀で。教えればなんでもすぐ出来るし。  ぱっと見、整いすぎだからか、無表情だと怖い系の顔なのに、笑うと人懐こいというのか、とにかく人当たりが良くて、営業回っててもいつの間にか色んな人と話してたりする。営業も、すごい向いてると思う。  早くと言えば早くもこなすし、スピード上げても、ミスも殆どしない。仕事を教えるのが楽しかった。どんどん覚えて、他の新人とは比べるまでもない成長で。上司も結構早くから、三上を認めてたし。  なんかもう、普通に接しても大丈夫じゃない?と、志樹に何度か言ったけど。志樹は、絶対緩むからダメ、と。  最初に頼まれた期限の2年が近づいてきたけど。  でもきっと、もうこれから先、普通になんて話してくれないよなあ、と思ってた。多分、取り返しつかない位、嫌われてるよなあ。と。まあでも。仕方ない。  だってきっと三上にとったらオレって、全然優しくない、仕事の話しかしない、一緒にご飯食べたりもしない、冷たい先輩、だろうから。  志樹の頼みを聞くと決めた時、覚悟はしてたけど。  指導する後輩に嫌われるとか。ちょっと寂しいなあ。と思ってて。  ――――……そしたら、出張話が降ってわいた。1人で行くつもりが、三上と一緒に行く事になった。  もしかしたら。  いい機会かも。  オレの態度の意味を話して、謝って、もし納得してくれたら。  ――――……この先、普通に話せるようになるかも。  普段だと、ふざけんなと言って逃げられてしまいそうだけど、新幹線の中。これから2人で京都。で、泊る。となったら、三上も逃げれないし。色々話が出来たら、嫌われてるのも、少しだけ解消……しないかなあ。  と、逃げれない状態でって、ずるいとは思いながらも。  この機会に、とことん話せたら、もしかして、と。  ちょっと期待したりも、した。  そしたら。  事実を話してすぐ、志樹に怒鳴りに行ってしまったけど。その後、後ろの座席に座られてしまったけど。  思ってたよりずっと、三上は冷静で、一通り謝った段階で、もういいです、と言ってくれた。  わー、こいつ。  …………すげえ、器でかいというか。  すごい、いい奴。  2年も、冷たくされて、嫌いだっただろうに。 「あの最低くそ兄貴のせいで、先輩にも無理させて、すみませんでした」  なんて。 言ってくれたりして。  普通なかなかできないよな、こんなの。  すごいなー、大人だな、三上。  志樹が言ってたっけ。  肝座ってるし、メンタル強いし、2年間終わって事情が分かれば、すぐあいつは忘れてくれるから。  そんな訳あるか!と思って。嫌われる覚悟をしたのだけれど。  三上って、いい男だなあ。  と思ってしまった。  

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