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第58話◇side*陽斗 2

 取引先について、木原さんに会う。  この人、仕事出来るし、悪い人じゃないんだけど。  んー。なんか、支えるように触られるんだよね。ドアに入る時とか、椅子に座る時とか。ふとした時に、まあ別に良いんだけど。  結婚してるんだから、男が好きって事もないだろうし、  まあ、男にも優しく触る、そういう人も居るんだなあといつも思ってた。  まあ、なんかものすごく気に入られてるのかなあとは、思っていたけど。だって、京都に戻る事が決まった時、会えなくなるのが残念って死ぬほど言われたし。  ……まさか、京都にまで呼び出されるとは思わなかったけど。  ……で、話が始まってしばらくして、なんか。ふと気づくと、三上の顔が険しい。  と言っても普通の無表情なんだけど、いつも、営業先で、良い感じの笑顔になってる三上とはえらい違いなので、オレには分かる……多分、木原さんは気づいてないけど。  ……ちょっと怒ってる……?   気になりながらも話が終わり、もうとにかく、早く帰ろうと思っていると。 「あ、渡瀬君、ここの工場見ていくかい?」  木原さんに、そう誘われてしまった。 「良いんですか?」  すぐそう答える。  見てもいいし見なくてもいい程度だったけれど、まあ見せたいなら、見ておくか。と。思ってそう答えたんだけど。  木原さんは、無表情の三上には。 「じゃあこっちの資料の訂正については、そこの君、うちの担当と一緒にしてもらえる? 今担当を呼ぶから」  そう言った。三上が瞬間、固まった。  返事をしないので、ちょっとまずいなと思って。   「三上、頼める? オレちょっと、工場見せてもらってくるよ」  そう言ったら。何だかすごい勢いで、自分も工場が見たいと言い出して。なんか可笑しいなと思いながら、とにかく一緒に見学したいみたいなのでと、オレも一緒に木原さんにお願いした。  なんか、よく分からないけど、微妙な雰囲気が、木原さんと三上の間に流れてる。  何なんだ、この感じ。三上が超我儘言ってるみたいな感じになってる。  ……って実際そうかな? と可笑しいけど。  なんでそんなに必死なんだろ??  とりあえず、木原さんに、三上が勉強熱心だから無理を言ってる、というニュアンスを伝えておこうと思って、三上に「ちゃんと勉強していけよ?」と伝えた。  その微妙な雰囲気は、工場を見学してる間、ずっと続いてた気がする。  木原さんは、オレとだけゆっくり話したいみたいだし、  よく分かんないけど、三上はそれを邪魔してくるし。  夕食に誘われて、まあでも断れないか、と諦めようとした割とすぐ後。  三上が急に体調が悪くなった。  えーと…………?  …………木原さんと食事、行きたくないのかな??  違う、かな?   まあオレも特別いきたい訳じゃないけどさ。  せっかく、仲直りの楽しい夕食、三上と食べようと思ってたんだし。    もしかしてそうなのかなと思っている間に、三上がどんどん具合悪そうになっていって、結局、帰らせてもらう事にした。  呼んだタクシーに乗り込みながら、ぐったりしてる三上を見つつ、木原さんに別れを告げた。  ――――……仮病じゃないのかな。  旅館に帰った方がいいかな??    そう思ってるオレの隣で、三上は深いため息をついて、座り直した。  何か怒ってるのかな?と思ったら。 「……先輩さ、こういっちゃ、何なんですけど――――……」 「うん?」 「……バカ、なんですか?」 「――――……は?」  …………ひどくない?   後輩さん。 オレ一応、先輩ですけど。  バカなんですかって。ひどすぎる。  そう思ってたら。 「……どー見たって、あやしく2人きりになろうとしてんの、気づかないんですか?」 「……あやしく2人きりって……」  その言葉には、「バカ」を忘れて笑ってしまった。  何それ。  笑ってると、すごい疲れた感じで、仮病だと告白され、あ、やっぱりそうなんだ。なんでそんなことしたの?と思ってたら。 「そうでもしねーと、あいつと夕飯行くとこだったでしょうが」  と、ものすごい嫌そう。 「――――……え、なんでそんな、嫌がってんの?」  と聞いたけど、後で話しますとか言って、話してくれないし。  むむ……。  ちょっとこういう所、志樹に似てる。  オレの人付き合いについて、何か言ってくるとこ。  ……兄弟か。  兄弟って、そういうとこ、似るの? 兄弟そろって、何なんだろ。  不思議……。

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