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第62話◇side*陽斗 6

 嘘だろ。昨日のオレ。マジか。  ……酔ってた。…………酔っては、いたけど。  ――――……でも、そこまで前後不覚だった訳じゃない。  ――――……全部覚えてるし。  起きるのを待つのは耐えられなくて、三上を起こした。  がばっと起き上がられて。びっくりする。 「あ。――――……おはようございます……」  普通に、挨拶はしてくれた。  よかった。怒っては、ないみたい。  でも、とにかくとんでもない事させて、ごめん、と、  ひたすら謝ったら。  そしたら。キスしたくてしたんだ、と三上は言った。  今も、キスしたい、と。  しばらく考えさせてとオレが言ったら、観光を楽しもう、と言ってくれた。  ……やっぱり、優しいし。  なんかオレの中の三上の評価がものすごい上がっていく……。  朝食の時、迷ったり後悔したりしないのか聞いたら。 「昨夜した事は後悔してないですし。今もしたいっていうのは……本当ですけど。 でも、先輩が嫌なら、2度としませんよ」  って、なんかものすごく普通の事みたいに言うけど。  普通そんなに割り切れないと思うんだけど。  ――――……昨日はしたくてしたから後悔してない。今もしたい。でも嫌なら2度としない。とかさ。    ……オレだって、昨日、嫌だったら、途中で止めてる。  いけない、と思いながら、良すぎて、流れに任せてしまった。  嫌じゃなさ過ぎたから、本当に、困ってしまう。 「――――……今夜も、一緒に、泊まります?」  そう言われて。  昨日の事が全部頭によみがえってきてしまった。  その時に浮かんだ感情は、それを嫌だとは思っていない、そんな想いで。  鼓動が早過ぎて、困る。  目の前に居るのは、後輩。  昨日は酒飲んで変な相談とかしちゃって、あんな事になってしまったけど、来週からまた、自分の下に居る、指導すべき、後輩。  顔見て、ドキドキする対象の相手じゃない。  はず。  なのに。  部屋に戻ってすぐ、洗濯してもらった洋服を三上に渡すと、さっさと浴衣を脱ぎ捨てて、着替え始めてしまった。  ……男同士だし、昨日、風呂も一緒に入ったし、全然普通の、行為。  なのに。その裸に、昨日しがみついてしまった、三上を思い出して。  オレは、思わず、洗面所に逃げ込んでしまった。  着替え持って洗面所って。  ……女子か、オレ!!  なんか、出られない。  隠れてしまったせいで、余計恥ずかしくなった。  外で普通に着替えれば良かった。  こんなの、意識してるって、言ってるみたいなもんじゃん。  ……マジでバカ、オレ。 しっかりしろよ。  恋したての女子高生じゃあるまいし……  と自分で考えて、更にその考えた言葉に、クラクラしてくる。  って ……恋したてってなんだ!  女子高生ってなんだよーもうーー!  思考自体がアホっぽくて、もう、自分にうんざりしてくる。  時間が経てば経つほどに、戻れなくなると思って、何とか着替えて部屋に戻ると。 「似合いますね」  なんて言われて。 「あ。うん。……ありがと。三上も、似合うよ」 「そうですか? 自分的には、かなり違和感ありますけど」  ……っっ何なんだこの会話。  めっちゃ恥ずかしい。  そう思っていたら、三上が、オレの横を通って、その瞬間。  びく、と体が震えてしまった。  なんでオレ。今。びくついた?  触られるとか思った?  でもべつに 嫌だったわけじゃない。  どき、と、した。  ああ、もう――――……ヤバい。  三上は、昨日、言ってた。  そんな事しても、仕事に支障なんか出さないって。  大人なんだし、慣れてるし、今更、とか。  ……このままじゃ、どう考えてもオレだけが、仕事にめちゃくちゃ支障が 出てしまいそう。――――……どうしよう。  ふらふら窓際にたどり着き、綺麗な庭園を眺める。  ――――……キレイ。ちょっと落ち着く。  そうだよ。ちょっと落ち着け、オレ……。  ――――……昨日は、酔ってた。  三上も、絶対酔ってた。  ……キスは良すぎて困ったけど。  まあ最初の生理的な嫌悪とかがなければ、別に男でもできてしまうんだなって、分かってしまった事はびっくりだったけど。  ……ていうか。  ほんとにヤバい位。良すぎて、困ったけど。  キスしたいと思わない、とか。  ……どの口が言ってんだ、オレ。

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