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第63話◇side*陽斗 7
歯磨きを終えて帰ってきた三上は、観光したら帰ろう、と、言い出した。
夕方に東京に着くように、新幹線を予約してと。
――――……あ、帰りたいのか。
……そっか。
まあ。オレ、もともとは1泊で帰ろうと思ってたし。
――――……そうだよね、帰るよな。
「先輩? どうか、しました?」
「――――……別に………庭、綺麗だなーと思って」
……どうもしない。
――――……帰ればいい。
でも、はっきり話せないオレに、三上が、困ったみたいな顔で。
「帰りたくないですか? オレと、今日、泊まる?」
そう言ってきた。
――――……そんなの。頷いたら。
オレが、三上と、泊まりたいって、思ってるって事に……。
キスしたいとか、言われて、考えさせてとか言ってるのに。
夜一緒に過ごしたいとか。
あ、もうなんか絶対変だと思う。
「…………そ、んなこと、言ってない」
そんな事言ったら、絶対変だ。
「先輩」
落ち着いた声でオレを呼んで、一歩近づいてきて、腕を軽く掴まれる。真正面で三上と向き合わされて、恥ずかしくなる。
「……先輩が、オレのこと怖がってるかと思ったから、オレ、帰ろうと思ったんですけど」
「――――……?」
何、言ってるんだろう、三上。
「怖がってなんか、ない、けど」
「――――……オレが横を通るだけで、びくびくするじゃないですか」
「……っ怖いとかじゃ、ないし」
「じゃあ何なんすか?」
「…………」
そんなの何て言ったら良いか分からなくて、また、俯こうとしたら、頬に三上の手が――――……瞬間、また、びく、と体が震えた。
なんか。三上に、触られる事に、体が、びくついてて。
ゆっくり、頬に触れられて。三上を見上げる。
「――――……緊張してる? 意識、してます? オレのこと」
「…………わか、らない」
「――――……」
「……昨日オレが変な相談しなきゃ、こんな、ことになって、ないだろ。……なんかよく、分からなくて……それに、お前もほんとはあんな事」
「先輩」
指で唇に触れられて、オレは、何も言えなくなった。
「……オレは、後悔してないし、またキス、したいし。……ていうか、先輩じゃなかったら、オレ、昨日もあんな事、絶対してない」
「――――……え」
三上のセリフは。
――――……なんか。
オレを、特別だと、言ってるとしか思えない言い方で。
「先輩、やっぱり、今日、一緒に泊まりませんか? 1日、観光して、過ごして、落ち着いて――――…… それで、もし……先輩がいいなら、オレは触りたいけど」
「――――……」
「やっぱりやめようって事なら、触りませんから。普通に泊って、普通に楽しんで、明日帰りましょう」
「――――……」
「とりあえず、今はそれでいいですか?」
「――――……お前、それでいいの?」
「はい。ちょっと落ち着いて、夜までに考えてくれれば」
――――……何かもう。
………優しさに、胸が痛くなるんだけど。
オレ、おかしくない??
後輩だよ、後輩。
これからも一番近くで仕事、一緒にしてく、後輩の――――…… 男。
しかも、一緒に頑張ってきた志樹の、弟で……。
なんかもうどうしたらいいか分からないけど。
――――……とりあえず、帰るって言われてショックだった、のは確かだったので。……考えるのを先延ばししても良いって言ってくれたから。
とりあえず、もう一泊、出来るかをフロントに聞きに行きながら。
――――……できたらこのまま泊まれたらいいなと思ってしまいながら。
でも、泊まらない方がもしかしたらいいのかなとも、思いながら。
そしたら、運が良いのか悪いのか?
大丈夫ですよとの返事で。
このままもう一泊出来る事になってしまった。
どうしよう。
――――……三上は、キスしたいとか触りたいとかは言うけど、ずっと平常心て感じで、普通で。
きっと、オレがやっぱりやめようよと言ったら、普通の顔で、分かりました、て言って、きっと、それ以上この件に関しては何も、言わないんだろうな……。
そういう奴な気がする……。
対して、オレの平常心は。
完全に、どっか消え去っているから、呼び戻してこないと……。
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