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第65話◇side*陽斗 9

「……先輩」 「うん?」  わらび餅を食べ終えて、お茶を飲んでたら、三上がオレを見つめる。 「先輩、合コンではモテるって言ってたけど」 「うん?」 「学生時代とかは? どうでした? 超モテました?」 「……何回か告白されたけど……そんなにいう程モテてないし。合コンってなんかすごいよな。あの場は独特。オレでもすごいモテるし」  学生時代は別に普通だったぞ。  なんで聞くんだ?  卒業してからスーツで行く合コンは、なんかやたらモテるけど。なんなんだかもよく分かんないけど、とにかく、すごすぎて、引いてきてしまう位だったからな……。 「あ、ケーキどうぞ」 「いいの? 食べちゃって」 「全然良いです。オレむしろ、スイーツとかって一口食べれば満足な感じなんで」 「ええ。もったいな……」 「一口目が一番美味しくないですか? その後は段々甘さが気持ち悪くなってくるっていうか」 「それは無い」  完全に否定して、いただきまーすと口に入れると、すごい美味しいし。 「……無さそうですね」  その言葉にふと視線を上げると、三上の視線がやたら優しくて。 「――――……」  何か。  ――――……今まで見ないようにしてきたし。  勿論説明する時とか、ちゃんと分かってるかなと、顔を見てたけど。  オレも笑わないから、三上も笑わなかった。  もうちょっと、仲良くならない程度でうまくできてれば良かったんだろうけど、そんな事出来なくて、ほんとに悪かったなと思いながら。  目の前の、優しい笑みに、何秒か言葉が出なくて。 「ていうかさ。――――……三上こそ、すごいモテるだろ?」 「……モテそうに見えますか?」 「うん。見える」  絶対モテるだろ。多分オレのモテるのなんか、吹き飛ばされる位モテるんじゃねーかな。  女子が、これで見つめられたら、アウトだと思うんだけど。 「オレは――――…… まあ総長時代は、冗談みたいにモテましたけど」 「そうなんだ」  くす、と笑う先輩。 「まあ、昨日の写真は、確かにカッコよかったから分かる」 「――――……つか、あの写真の事は、忘れていいですから。いや、もう綺麗に忘れてください」 「あの写真、送って。たまに見たいから」 「絶対嫌です」 「なんで? いーじゃん」 「無理」 「カッコいいのに」  ほんとに見たいのに。残念。  でもなんか、嫌がってる三上がちょっと可愛くて、笑ってしまう。 「パンフレット見せてください」 「ん」  はいどーぞ、と渡してから、ケーキを食べ続ける。 「先輩、他に行きたいとこありますか?」 「んー……静かな寺院とか、行きたいな。庭が綺麗なとことか」  答えながら、パンフレットを見つめてる三上を眺める。  意外と、睫毛、長い。睫毛が長いから、なんか黒目が濃く見えんのかな。目力強いよな……。  三上って。手、デカいなー……。  パンフを開いてる手が目に入ってくる。 「――――…………」  ――――……手。  つか。  昨日、この、手に――――……。  やばいこと考えてしまいそうになった瞬間、三上が急に顔を上げてきた。  ドキドキドキドキドキ。  心臓がヤバい。 「……? どうしました?」 「……いや、別に」  不思議そうだったけど、すぐまたパンフレットに目を向けてくれて、ほっとする。  なんか、三上の手、大きくて、綺麗だけど。  ――――……あの手で、オレ、昨日。  なんてことさせてしまったんだろう……。  三上の問いに答えながらも、もうなんか後悔やら羞恥やら、なにやらいっぱいの感情が、入り混じる。  落ち着け。そっちは忘れろ。バカ。オレ。  何考えてんだ。  忘れろー…………。

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