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第66話◇side*陽斗 10

 ……にしても。  三上って、顔、ほんとにすげー整ってんな。志樹と並んで見た時、迫力あるなーと思ったっけ。  分かってはいたけど、あんまり見ないようにしてたというか。  見つめ合わないようにしていたからかな。意識してなかったけど。  下向いてると、睫毛キレイだな。鼻筋、通ってるし。  ほんと、イケメンていうんだろうなあ……。  ……この顔、昨日あまりに、近くで、見すぎて……。  と、そこでまた、脳裏にやばいシーンが浮かんできて、くらくらしてきそうになった時。また三上が視線を上げた。  ――――……つか。もう。 「何で、三上、突然こっち向くの」  何だか目が合うタイミングが嫌すぎて、思わずそんな風に言ってしまった。  完全に八つ当たりみたいな……。  当然だけど、は? という顔で、三上に見つめられる。 「視線、感じるから。 何で見てるんですか?」 「いや。なんか……」 「なんか?」 「――――……顔、すげー整ってるなーと思って」 「――――……」 「下むいてると、余計なんかいつもと違う感じでみえるなーと思って、見てただけだよ」  変に思われたくなくて懸命に言った言葉に。 「先輩、オレの顔好きてこと?」  なんて聞いてきた。  瞬間、ものすごい、焦る。  え、そんなこと思ってなかったけど。  ん? ……そうなのか、オレ? 「――――……いや、べつ、にそういう……??」  あれ? 好きってことなの?? オレ。 「……先輩さ。もうちょっと考えて喋ってくれませんか」 「え?」 「――――……先輩は意味なく言ってる言葉でも、こっちは、めちゃくちゃ意識するんですけど。 ていうか、そんなの言われてたら、意識してなくても、意識し始めちゃうというか」 「――――……」  意識、する。  …………意識って。 「……そんで。オレの顔、好きなんですか?」 「――――……」 「好きだから言ったんです? それともなーんも考えないで、整ってるなーていう、ただの感想? まあ。整ってるつーのは、嬉しくなくは、ないんですけど……」  ため息を付かれてしまう。  そんな事言われても。意識するとか言われて……なんて言ったらいいのか、全然頭が働かない。  オレ、普段――――…… 色々考えて、最速で最善で、最大限効果の出る仕事をしようとしてるし。多分、それはうまくいってる。評価もされてるし、信頼もされてる、筈。  なのに何で、ずっと、三上との会話、うまく出来ないんだろう。  言われてから考えたり。  言われてもよく分からなくて、何も返せなくなったり。 「整ってるなっていうのは、初めて見た時から思ってたし。 志樹と2人で、迫力あんなーとも思ってたし……」 「……ただの感想ってこと?」  ただの感想って……何て言えば良いんだよ。  ただの、感想じゃなかったら、なんなの。  ていうか……。  何考えてたんだっけ、オレ……。  だから……。 「――――……ただ……昨日めちゃくちゃ近くで顔見ちゃったな、とか……」  …………オレって、今、何言ってんだ。  近くで見ちゃったって。どこでって聞かれたら、何て言うつもり。  目の前で固まってた三上は、何も言わずに。  小さく、息を、短く吐き出すと。  不意に肘を立てて。  パンフを顔の前に持って、完全に顔を隠してしまった。  そのまま。  パンフだけ、めくってるだけで。  全然。顔を見せてはくれない。  ちょっと気まずいけど。  ――――……ちょうど、良かった。  もう心臓が、バクバクしてたから。  ――――……近くで見てたって事に詳しく突っ込まれたら、何て言おうかと、思った。布団で? ……すごい事しながら、見てたって? 言える訳ないし。  オレほんと。  ――――……なんでこんなに、アホみたいな会話してんだろ。    三上に、もうちょっと考えて喋ってくれませんかって、言われてしまった。  …………バカだと思われてるかな。  うん。思うよな。  オレも思うもんな……。

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