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第72話◇惑わされる
昼食の後、大阪に行って、テーマパークに入った。土曜だから混んでる。
オレも先輩も、初めてだし、前情報も何もない。何となく調べなくてもいいかと、緩い感じで進みたい方に進んで、すぐ乗れそうなものにちょこちょこ並んでいくつか乗った。
歩いていると、いろんな所で、ダンスや歌のパフォーマンスがあって、立ち止まって見たり、良く知らないキャラクターとか写真を撮ったり。
その間、先輩は、めっちゃくちゃ笑顔で楽しそうで。
オレ、昨日までこの人の笑顔、ちゃんと見れもしなかったのに。
何かすごく損してた気分。
……兄貴め。
また怒りが沸き起こりそうになるけど。
すぐに、隣に居る先輩の笑顔に、まあいっか、と絆されてしまう。
「先輩、喉乾きません?」
「んー、アイスティーが飲みたいな」
「あそこの店で買ってきますね」
「一緒に行く」
「いいですよ、ちょっと混んでるし、座って待ってて」
「いいよ、一緒に行きたい」
それ以上言う事も無いかなと思って、頷くと、先輩は、ふ、と笑う。
「ほんとお前、優しいな」
クスクス笑いながら、見上げてくる。
まあもともとこういうのは、苦にならない。
多分、弟気質なんだろうな、オレ。ガキの頃、兄貴にこき使われた記憶がむかつくけど、でも、そのおかげというか、そのせいと言うか、こういうのに動くのとか、取りに行くとか、全然苦にならない。
確かにここらへんは、女と付き合う時も、よく好きって言われたような。
でも大体、女は、座って待っててと言えば、座ってたけど。
この人は、一緒に行きたい、とか言うんだな。
――――……なんだろう。
こんなピンポイントでも、ツボ。
全部可愛いって、ほんと、何でかな。
「三上、ここ、甘い物も売ってるね」
並びながらメニューを見てた先輩が、なんかまたキラキラしてる。
「何がいいかなあ?」
「……午前中、パフェとか、ケーキとか……」
「ん? 何も聞こえません」
控えめに突っ込んでみたら、即座に、クスクス笑いながら先輩が首を振った。
「いいじゃん、ここでもすっげー歩いてるし。大丈夫!」
「……いいですけど」
「普段はここまで食べないからさ。だってなんか、ちょっと珍しいものがあるからさ」
そんな風に言い訳してる姿に、笑ってしまう。
こんなに甘い物好きとか。
2年も、結構な近くに居たのに、知らなかった。
なんかめちゃくちゃ幸せそうな顔で、甘い物食べるとことか。
――――……オレ、これからは、普通に見れるのかな。
ずっと、楽しそうな先輩を見てると、ふと思う。
気持ち良い事、してほしい、したいて言ってくれるなら、
そりゃしたいけど。
――――……してしまった後って、オレ達、どうなるんだろう。
変に意識、して。
日常に戻ったら、先輩が、はっと我に返ったりして。
また今度は違う意味で避けられたり、しないかなとか。
もうこの人、ウブで、ここら辺関連、考える事がおかしいから。
何を突然思うか、分からない。
気まずいとか、そんな風になる位なら。
――――……この、楽しいまま、この笑顔のまま、
居られた方が良いんだろうか、とも、思ってしまうオレも居て。
こんなに良い笑顔で笑ってくれる先輩と、普通に仕事して、普通に一緒に会社で飯食ったり。今までできなかった事、できるならそれも良い。
先輩に触りたいと思うのと同じ位の気持ちで、
普通に居た方が良いんじゃないだろうか、とも、思う。
さっき先輩には、最終決定と、とりあえず言ったけど。
オレは、もうしばらく、よく考えた方がいいよな……。
「三上、何か食べる?」
「んー……ちょっと腹減ったから、ホットドッグ食べようかな」
「そっか。オレ、このレモンのクレープにする。超美味そう」
「混んでるし、一緒に会計しちゃいましょうか。ここ、出しますよ、さっき出してもらったんで」
「え。いいよ。オレ出すし」
「嫌です。出させて」
「んー……じゃあ次に飲み物買う時はオレが買うからね」
「はい。あ、先輩飲み物は?」
「んー、アイスレモンティー」
「了解です」
順番が来て呼ばれるので先輩と移動。
レジで会計を済ませてから、レシートを持って、奥に進む。
奥の方でスタッフがオレ達の分を用意してるのを眺めていたら。
「なんかさあ、三上ー」
「はい?」
「なんか、普通にデートしてるみたいな気にならない?」
「――――……っ………ごほっ……」
「え、何でムセた?? 何何、大丈夫?」
何か答えようと思ったのに、耐えられず、ムセた。
くそ。
「――――……でーと、って……」
「え、だって、デートしてる時と、同じ事しかしてない気がして。三上はしない?」
「――――……」
……確かに。
そう言われてみると、傍から見りゃ、イチャイチャしてるカップルと同じような事しかしてない気はするが。
――――……言う? それ。
どんなつもりなんだろう。
…………どんなつもりも、なさそう。
はー。惑わす気の無い人に、惑わされるって。
これはどーすりゃいーんだ。
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