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第89話◇ずっと居たい

 温泉に浸かって、先輩は、オレから顔を背けたまま、外を眺めてる。  隣から、先輩を呼んでみる。 「あのー……陽斗さん?」 「……知らない」  なんか顔、絶対膨らんでる。  ……なんか。顔膨らませるとか。絶対、幼くなってる。  多分、恥ずかしすぎて、対処できてないんだろうなあ。  ――――……あの後、キスしまくって。それから、風呂場に連れ込んだ。  洗ってあげる、なんて言って、髪を洗ってあげた所までは良かったけど。  体を洗い始めたら、なんかもう敏感になりすぎてるのか、普通に洗っているだけでもピクピクするもんだから、もう我慢できなくなって。  反応してた先輩に触れてしまった。  キスしてる時から反応してたし、1回すっきりしておきましょうなんて言って、少し嫌がってる先輩に、ちょっと無理無理触れた。  でも、嫌がってると言っても、待って、と少し言った程度で。  恥ずかしいからだろうなと思う程度だったから、石鹸つけてぬるぬるしてるのを良い事に、オレのと合わせて、昨日やったように、一緒に。  お互い、かなりあっという間にイッてしまって。  うわー、ヤバいなこれ。興奮しすぎで、早すぎた……。  とりあえず一回終わらせといて良かった。  なんて思っていたら。  先輩が、離して、と言ってオレから離れて。  無言のまま、シャワーで泡ごと全部流して、そのまま浴槽に沈み込んでしまったのだった。  オレは先輩を洗ってあげてただけで、まだ何も洗ってなかったので、髪も体も洗ってから遅れて浴槽に入ったのだけれど。  ぷい、とそっぽを向いたまま。全然こっちを見てくれない。 「……陽斗さん?」 「…………やだ」    肩どころか首までつかって、動かない。  ……笑っちゃうくらい、可愛いんだけど。  怒ってんのかなあ。  まあ確かに、いや、待って、とか言ってたけど。  ……可愛くて、聞けなかった。 「怒ってますか?」 「――――……」  無言。動かない。 「陽斗さん、怒ってるんですか?」 「――――……」  先輩は、小さく、首を横に振ってる。  ああ。怒ってる訳じゃないんだな。  てことは。 「じゃあこっち、見て?」  腕を掴んで、引き寄せる。  オレをまっすぐ見上げた先輩は、真っ赤で。 「……恥ずかしかったです?」 「――――……」  また眉を寄せて、む、と口を閉じた。  可愛くて見えて、ちゅ、と口づける。 「――――……っ」  じっと見つめてくる先輩を、見下ろして。 「ごめんね、反応してたし――――…… 一回出しちゃった方が、楽かなーと思って」 「…………っっ」  あ、またもっと赤くなった。   「……気持ちよくなかった?」 「…………っ……分かってるくせに、聞くなよ」 「良かったって事ですか?」 「――――……っオレ、三上、やだ」  あ。今度は怒ったかも。  だめだな、可愛くて。  笑ってしまいながら聞いちゃうから、ムッとさせちまうのかも。 「ごめん、怒んないで?」  笑いを引っ込めて、先輩の頬に触れてみると。  先輩は、少し困った顔をして、俯く。 「……だから、オレ……怒ってる訳じゃ」 「そっか」  その頬にキスすると、先輩は、ふと、笑う。  ……ほんと、可愛い。  そっと離して、先輩の隣に座って、月を見上げる。 「――――……今日も綺麗ですよね」 「……ん」 「もう明日は帰らなきゃなんですよね」 「……うん。そうだな」  そのまま少し沈黙。 「オレここに、ずっと、居たいかも……」  この人と一緒に。 「…………ん」  先輩、静かに頷いて。くす、と笑った。 「……そーだなぁ……分かる。ここ、いいよなー?」  そんな風に言ってる。  ちょっと違うんだよなーと、少しモヤモヤして。  オレは、先輩に手を伸ばして、その頬に触れた。 「オレは、陽斗さんと居たいって言ってるんだけど、分かってますか?」 「――――……」  先輩は、触れてる指に、少しくすぐったそうにしながら。 「……あのさ、三上さ」 「ん?」 「……普通に陽斗さんて呼ぶのやめて」 「――――……」 「…………いちいち、心臓が……」  少し俯きながら、そんな風に言う。  質問の答えの方は返って来てないけど、なんかもう。  はー。  ……可愛いなあ、もう。  

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