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第102話◇腕の中に

 先輩は、すっぽり、オレの腕の中に埋まった。  こんな風に埋まって、抱き締められたままでじっとしていてくれるとか。    ……なんか、はっきりいって、奇跡みたいな気がする。  もちろんもっとすごい事はしたんだけれど、あれは「気持ち良い事」だし。すると決めてしまえば一連の動きとして出来る気がするけど。  そうする必要もない時に、こうして抱き締めるとかの方が、なんだかよっぽどハードルが高い気がして。  ……抱き締めさせてくれるんだなあと、内心感動していると。 「……ちょうどいい」 「ん? ……何ですか?」  ぽふ、と余計にオレの胸に埋まって、オレの浴衣の背中部分を、きゅ、と握ってくる。  ……ナニコレ。  可愛すぎるんだけど。 「……なんかめちゃくちゃ、照れるからさ……」 「……え?」 「顔見ないですむから、こーしてるの、ちょうどいい……」 「――――……」  オレは、先輩をぎゅ、と抱き締めた。  ――――……あー。……可愛い。    照れるから、埋まってるのかー……。  まあ確かに、顔見つめ合うと、今は恥ずかしいかも……。  ――――……あんなに色んな事しておいて、照れるとか。  オレ達、なにしてんだろ……。 「……陽斗さん」 「……ん?」 「水飲みますか? 喉乾いたでしょ?」  結構、声、出してたし。……特に最後の方とか。  言ったら慌てふためきそうなので、心の中だけで言いながらそう聞いたら、うんと頷く。 「水持ってきま……」 「それでいいよ」  離れようとしたのを、止められた。 「三上が持ってるの一口くれれば」 「飲みかけですけど」 「……今更じゃない?」  そんな風に笑う先輩に、確かに、と思って、持ってたペットボトルを渡す。  先輩を少し離して、でもその腰のあたりに手を置いたまま。  先輩が水を飲む首元を超間近で見つめてしまう。  ――――……喉、綺麗。  あー。キスしたい。なめたい。甘噛み、したい。  抱いてる時そうすると、めちゃくちゃビクビク震えるから、そこら辺、かなり弱い。  でもなんとなく、唇を寄せる事はできなくて。  すり、と手で触れてみた。 「……? なに?」 「美味しいです?」 「うん、美味しい」  ふ、と微笑む先輩がキャップを閉めたのでそれを受け取って、そのまま、抱き締めた。 「三上って……くっつくの好き?」 「……うん」  頷くと、ぷ、と笑う先輩。 「……陽斗さんさ――――……オレとすんの……嫌じゃなかった?」 「――――……」 「……陽斗さん?」  少しだけ腕の中を覗き込むと。  俯いてるけど。真っ赤。 「……だから……オレ、照れるって言ってるじゃん…… 嫌だったら、照れてないで青ざめてるから。……ていうか、ここから脱走してるから」  そんな台詞に、ぷ、と笑ってしまう。 「脱走しちゃうんですか?」 「……うん。してるな、多分」 「……じゃあ逃げられてないから嫌じゃなかったって事ですね?」  クスクス笑いながらそう言ったオレに。  オレを少し見上げた先輩は。  少し体を伸ばして、不意に、オレにキスをした。 「……陽斗さん?」  驚いて、名を呼ぶと。  キスしてきたのに、恥ずかしそうに、少し視線を落とす。 「あのさ……嫌じゃなかったですかとか、聞くなよ」 「え?」 「そうじゃなくて……よかった?とか、聞けば?」  ――――……ああ。確かに。  ……なんか、知らず自信無えのかな、オレ。  否定っぽいとこからの質問してるな。  ……つか、この人相手で、そんな自信とか、ある訳ないけど。 「……陽斗さん、良かったですか?」 「――――……うん」  何か言おうとして。結局言えなかったみたいで。  頷くと。  先輩は、オレの肩に、額をのせた。  すごく時間が経ってから。  先輩は、くす、と笑って。埋まったまま。 「……よくて、びっくりした」  とか。いきなり言うから。  つか。はーー。もーー。なんなの。  ――――……こっちがびっくりだっつーの……。 ……マジで。  そのまま、ぎゅー、と抱き寄せてしまった。       

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