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第105話◇甘い理由

「甘い、かあ……ていうか、三上も、オレに甘い気がするけど……」  そんな風に言って、先輩はクスクス笑う。 「それはまあ――――……そうかもですけど」 「かも、じゃないよね?」 「――――……まあ。そうですね」  ふ、と笑いあって、見つめ合っていると。  先輩は、少し照れたように、視線だけ逸らした。 「んー。……これはさ……ちょっと違うかもしれないけど……」 「……ん?」 「ずっと、甘くしたくても出来なかったから……」 「――――……」 「その分も割り増しで、お前に甘いかも」  そんな風に言われて、ぷっと笑ってしまう。 「何、それ。陽斗さん……」 「んー。甘くしたいっつっても、こういう意味とは違うんだけど……でもさ、仲良くしたかったのに近づかないようにしてたし」 「――――……」  もちろんそれは、ただの先輩後輩としてだっただろうけど。  ……仲良くしたかった、とか。  …………物凄く嬉しい事を、さらっと言ってくれてる。  オレが内心めちゃくちゃ喜んでいる事には気づかず、先輩は続ける。 「その反動でさ、今、三上が近くでオレを見て笑ってるのとか……嬉しいって感じるし。やっぱり少し関係あるかも」 「…………はー……なんですか、それ」 「……ん?」 「……もう、ほんと、可愛いなあ――――……」  じー、と見下ろして、そう言うと。  先輩は、また首を傾げる。 「オレ今可愛いこと、言った?」 「言いましたよ」  何なら、また、ほんのすこし 首を傾げるのすら、死ぬほど可愛いンだけど。 「……三上の、可愛いって対象、すごい幅広すぎない?」 「広くないですよ」  こんなに可愛い可愛い思った事ねーし。 「何でも可愛いっていう気がする」 「んな事言われたって、全部、可愛いんですよ」  何でこんなに可愛いって感じるかは謎だけど、  可愛いとしか、思わないっていう事実は、事実。  ヤバい、可愛くて。  愛おしいとか。  このカッコイイ人が、こんな可愛いとか、他の誰も気づかないと良いなとか、心底思ってしまう。 「あ、陽斗さんさ、誰かに、可愛いって言われた事あります?」 「…………?」 「最近。あります?」 「記憶にないけど」  ……記憶にないだけで、ありそうな気もするな。  言われても、完全にスルーしてそうだけど……それで記憶に無いんじゃないのかな。 「これから、もし陽斗さんに可愛いとか言う奴いたら、教えてください」 「……」  ぷ、と先輩は可笑しそうに吹き出した。 「なに? もし居て、そいつを教えたら、三上、どーすんの?」 「ん? あー。どうしようかな……。 まあ、とりあえず、ガードします」  何だよ、それ、と先輩が笑う。 「ていうかさー、オレ、27だからね。 可愛いとか、普通言われないし。三上も、もうちょっと考えて、喋って。 オレ可愛くないし」 「オレはちゃんと考えて言ってますけど」 「絶対考えてないと思うけど」  クスクス楽しそうに笑って、オレを見上げてくる。 「考えてますって」  頬に触れて、唇に、指で触れる。 「――――……」  黙った唇に、そっと、キスする。 「――――……ほんとに……」 「?」 「――――……タラシだな……お前」  ふ、と困ったように笑う先輩に。  オレは苦笑い。 「……とりあえず、寝よっか、三上」 「ん、そうですね」  抱き寄せて、腕枕。 「いいですか、これで寝て」 「……ん、いーよ」 「――――……ありがとうございます」 「……ぷ。何で礼言うの」 「……さっき、されて、かなり恥ずかしいの分かったから」 「――――……」 「腕枕させてくれて、ありがとうございますって思って」  自分でも何言ってんのかなと思いながら、笑いながら伝えたら。 「――――……腕枕するの、恥ずいのも分かったよ、オレも」  クスクス笑いながら先輩が言う。 「じゃあお互い恥ずかしいって事で」  オレがそう言うと、先輩は、腕の中でふ、と笑った。 「――――……でも、なんか、暖かくて、いい感じ……」  笑みを含んだ、柔らかい声が。  可愛すぎて。  ぎゅ、と抱き締めた。  

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