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第106話◇この先…?
朝。部屋が明るくて目が覚めた。
と同時に、先輩がまだ腕の中に居るのに気づく。
――――……キレイな顔。
嫌いと思おうとしてすら、キレイだと思ってしまっていた。
それが、腕の中にある。
……ものすごい、奇跡みたいだな。
……抱かれて、泣いてる顔は、可愛かった。
――――……たまに怒って、困って、むくれる顔も。
恥ずかしがって、赤くなるのも。言葉が出なくなるのも。
普段あんなに仕事が出来て、流暢に話して、頼れる、カッコいい人なのに。
ギャップがなあ――――……。
……オレの前でだけ、こんななのかなあと思うと。
可愛くてしょうがない。
……この先どうしようか。
会社での先輩後輩の立場は変えないし、そこの接し方は今までのまま。
それは、もう、確定。
あとは。
……今まで一切関わってこなかった、プライベート。
先輩は、これからオレと、絡む気あるのかな。
……なんとなくありそうだけど。
昨日オレは、どんな好きか考える、とか言ったけど。
――――……最後まで抱いて、もう確信してる。
そういう意味で好きで、そういう意味で、抱きたいし。
男同士だけど、恋人になれるなら。
……めちゃくちゃ、愛したい……。
――――……って、思うんだけど……。
……きっと、そう簡単には、いかないよなあ。
オレもだけど、先輩も今までは女の子だけだし。
もし今のこの状況の始まりが――――……。
いつもの職場で、仲良くて、お互いをよく知って好きになって、こういうコトをしたなら、すぐ恋人も視野に入るんだろうけど。
……なんか今のこれを冷静に考えると。
旅先で。2人きりで、酒飲んで。先輩が悩み事打ち明けてきたりして。
更に、非日常な京都や大阪の地で、観光して浮かれて。
良い雰囲気の旅館で、一緒に、かなり良い雰囲気の部屋風呂に入って。
しかも今までお互い話したくても話せなかったっていう、盛り上がる要素満載な。……バカ兄貴のせいで。
何か色々な、普段とは違うイレギュラーな要素が山盛りの状態で、こんな風になってしまった。
これは――――……日常生活に戻って、はっと我に返った時。
どんな形になるんだろう。
なんとなく――――……答えを出すのは、この地じゃなくて、向こうに帰って、日常の中での方が、良い気はしてしまう。
……っても、それはあくまで、先輩側の話で。
――――……オレはもともと憧れて、こだわってた先輩で。
こうなって、あのこだわりが全部、心の底では好きだったからだと。そしてそれが叶わないからあんなに、モヤモヤしていたんだって、もう気づいてるし……。
……好きじゃなきゃ、男を抱くなんて絶対無理だし。
もう、言い訳も出来ず、そういう意味で好き。
でも、先輩からしたら――――……完全にちゃんとした男なのに。
オレに抱かれてくれたけど。
――――……それ、この旅が終わって、日常に帰ったら。もしかしたら今日、東京の自分の家に帰った瞬間。後悔しないとも、限らないし。
――――……ていうかその可能性、大いにあると思うし。
だから本当なら。
こういうのは……ここに居る間だけで。
あとは、普通の先輩後輩に戻ってあげた方がいいよな……。
それでもその後絡む中で、オレを選んでくれたら。
――――……オレは絶対恋人になりたいけど。
そのまま、ずっと先輩の隣に居たいけど。
……誰も、先輩に近付かせずに。オレだけのものに、したいけど。
延々そんなような事を考えていたら。
「三上……?」
オレは、先輩から視線を逸らして延々考えていたみたいで。
声にふと視線を戻すと、先輩の瞳がいつのまにか開いていた。
完全に寝てると思ってたので、ドキ、として。
「おはよう、ございます」
そう言ったら。
「うん。おはよー……」
ふ、と笑って。
そろそろ伸びてきた手が、オレの眉間に触れた。
「何……しかめっつらして」
クスクス笑って、そこをほぐすみたいに、すりすりしてくる。
――――……可愛すぎて無理。
むぎゅ、と抱き締めてしまった。
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