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第107話◇くっついてんの。

「…――――……」  ぎゅーと抱き締めていたら。  先輩の腕が、オレの背中に回ってきた。 「はは。……三上、どしたの?」 「……何となく」 「すごい抱き締めるよな……」  クスクス笑う、先輩の声が、すぐ耳元で聞こえる。  優しい声。  抱き締めてるから顔は見えないけど、きっと優しい笑顔なんだろうなと思うような、声で。 「…………なあ」 「……はい?」 「……これから――――……どーしたい?」 「――――……」  ふ、と顔を上げて。先輩の顔を見る。  目が合うと、ふ、と微笑む。 「なんか三上、難しい顔してるから……そういう事かなーと思ったんだけど……違った?」 「……バレバレですね」 「あ、やっぱり?」  ふ、と先輩は笑う。  じっと見つめあうと、先輩はまた、すごくキレイに微笑んだ。 「三上は、どうしたい?」 「――――……まだ、考えてた所で……」 「……オレも。すごい考えてる」  そう言った先輩の手が、そっと、オレの頬に触れた。 「……何が、一番、いいかなあ――――……」  キレイ。だなあ。この人は、本当に。  引き寄せられるように、キスしてしまう。  何も言わず、オレをずっと見てる先輩は、瞳を伏せずにいた。  唇が離れると、先輩は、ふ、と微笑む。 「考えよ、三上」 「……はい」 「……仕事もあるしさ。一番お互いイイ形でさ」  頷くと、先輩は、するりとオレの腕の中から抜け出た。 「シャワー浴びてくる」 「……一緒に行きます?」 「ううん。1人がいいな」  そう言われると、頷くしかない。  風呂の方に歩いて行く先輩を見送った後。   枕に頭を沈めた。  ――――……お互いにとって、一番いい形かあ……。  ◇ ◇ ◇ ◇  2人共シャワーを浴びて、身支度を整えて、朝食をとった。  スーツを持って帰るの重いしって事で、今日はスーツ。  軽く観光して、帰ろうと、決めた。 「三上、もう歯磨き終わったら、出れる?」  最後に歯を磨いていると先輩が、顔をのぞかせた。 「あ、はい」 「オレ先に、チェックアウトすませとこうか?」 「――――……待ってください」  歯を磨き終えて、口をすすぐ。 「そんな時間変わんないし、一緒に行きましょうよ」 「……ん」  ふ、と笑って、先輩が頷く。  スーツを着てると。正直、触りにくい。  ――――……「先輩」て、感じ。  やっぱりこのまま東京に戻って――――……スーツで会う関係に戻って、先輩後輩にもどったら、やっぱり、元どおりになるのかな。  先輩が望むなら、戻るしか、ないし。  ……別に、そんな、仕事に支障をきたすような事はしない。  そう、思っているけど。 「――――…………」  今スーツを着てる先輩を、抱き締めたら。  少し、変わる、かな………。  普段の、先輩を抱き締めたら。  なんて考えていたら。 「三上」 「はい?」  歯ブラシを置いて、振り返った瞬間。 「――――……」  先輩が――――……。  抱き付いて、きた。 「え。――――……ど、したんですか?」 「んー……なんか……スーツ着てるお前、ちょっと……距離感じて」 「――――……」 「……ちょっと距離縮めておこうかなと……」 「――――……」  なんか。  ものすごく。 「――――……陽斗さん」  ぎゅー、と腕の中に、抱き締める。 「……可愛すぎるんですけど」 「可愛くはないけどな」 「可愛いですよ」 「――――……」  ぷ、と笑った先輩が。  背中に手を回して、さらに密着してくる。 「――――……なんかオレ……お前とくっついてんの、好きかも」 「――――……」 「どうしよう。 ……これ、やばい?」 「……オレもヤバいんで。大丈夫」 「……それ大丈夫なの?」  くす、と笑ってそんな風に言うけど。  離れようとはしないでいてくれるので。  オレ達はしばらく、抱き合ってた。

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