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第108話◇敵わない
服や鞄は駅のコインロッカーに預けて、スマホと財布だけ持って、先輩と歩き始める。先輩はパンフレットを持ってて、スーツを着てるのに、めちゃくちゃ旅を楽しんでるみたいな感じになってるけど。 ……ちょっと可愛い。
「先輩、行きたい所決まりましたか?」
「うーん……どうしようかなあ。とりあえず、食べたいスイーツは決まった」
嬉しそう。
……やっぱ、ちょっとじゃなくて、すげー可愛いんだけど。
「何ですか?」
「きなこスイーツの店だって。パフェ食べたい」
「……昨日似たような物食べてませんでした?」
「え、全然違うけど。昨日はわらび餅のパフェだけど?」
「……ああ、そうでした」
一生懸命言ってくるもんだから、ぷ、と笑ってしまう。
和のスイーツで、パフェ。ほぼ同じ気がするけれど。
……違うらしい。
「じゃあその店の近くに、観光名所無いんですか?」
「んー……こことかかなー」
パンフレットで、先輩が指さす所を覗き込む。
「いいですよ、そこ見て、スイーツ食べて――――……どうします? 昼は、京都で食べますか?」
「……そんな早く帰んなくてもいいけど。オレ」
「――――……疲れてないですか?」
「疲れてないよ?」
「体は? ――――……早く帰って休んだ方が良くないですか?」
「――――……それって、そういう意味で聞いてる?」
「うん。聞いてます」
少し睨まれるので、クスクス笑いながら頷くと。
「……だから、大丈夫だってば」
眉を顰めたまま、先輩はまったくもう、と、ぶつぶつ言ってる。
それに笑ってしまいながら、ふと思いついて。
「あ、先輩、新幹線の予約してもらえますか? 少し早めに向こうにつくくらいで。あっちで夕飯食べましょ?」
「うん」
「その時間ギリギリまで満喫しましょうよ」
「ん」
オレの言葉に、先輩はまっすぐ見上げてきて。
それから、ふ、と微笑んだ。
道の端に止まって、先輩がスマホで新幹線の時間を確認している。
それを待ちながら、京都の町を歩いていく人の流れに、何となく目を向ける。
恋人同士、友達、家族――――……。
いろんな人達が居る。
オレ達はきっと今は――――……同僚だと、思われる感じかな。
日曜にスーツ着た2人、だもんな。仕事だと思われるよなぁ……。
オレ達がキスしたり――――……それ以上の事、昨日してたとか。
……誰も、これっぼっちも、思わないんだよな。
男同士って、そういう事だ。
――――……隠す必要もあるだろうし。
周囲に。大切な人達に、祝福してもらえるとは――――……限らないし。
目の前を通っていく、子供がいる家族連れみたいになる事は無いし。
「――――……」
別に元々、家族が欲しいとか、そういうのは無いし、オレは良いけど。
――――……先輩は……きっと違うよなー…。
やっぱ。
男女と違って、ただ、好きだからじゃダメかもしれないけど。
「16時過ぎに乗れば、18時位に東京つくよ。それで夕飯食べて帰る?」
言いながら、にっこり笑う先輩。
――――……何もしないで諦める事の方が、出来なそうな気がする。
「そうしましょう」
笑い返してそう答えると。
「ん」
嬉しそうに笑って、先輩がスマホに目を落とした。
何となく。
そっと、その頬に、ぷに、と触れて。すぐ離した。
「え」
ものすごくきょとん、とした顔で、オレを見て。
それから、ふ、と微笑む先輩。
「何それ?」
「――――……少し触りたくなって」
先輩だけに聞こえるようにそう言ったら。
先輩は、オレをまっすぐ見上げて。それから首を傾げた。
「――――……何でそんな一瞬?」
「人目、気になるでしょ?」
「――――……ちょっと持ってて」
「え?」
先輩がスマホとパンフをオレに渡して。
その手を、オレの両頬にかけて、むに、とすこし横に引いた。
「――――……変な顔」
クスクス笑いながら、かなり近い距離で、オレを見上げる。
「……気にしすぎ。三上」
やっと手を離して。
「こんなの誰も気にしないし、気にしたって別に関係ないし」
くす、と笑った先輩が、よしよし、とオレを撫でてから、オレに持たせてたスマホとパンフを受け取った。
「――――……」
なんか。
……こういうとこは。
――――…… ちょっと敵わない気が、する。
なんかもう。
ものすごく、にやついてしまいそうで。
――――……口元を隠してしまった。
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