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第109話◇次のため
2人で、ある神社の庭を歩く。
「ここ穴場なんですかね。人、居ないですね」
「そーだね、静かで良いとこ……」
砂利を踏んだ感じが心地よくて、下を見ながら歩いていたのだけれど。
先輩がオレを見て、クスクス笑っている事に気付いた。
「何ですか?」
「楽しそうに歩いてるから。ちょっと笑っちゃった」
「……だって楽しいんですよ。先輩とこうしてるの」
「――――……はは」
素直に言ったら、驚いた顔をして。それから、くす、と笑う。
「ん。楽しーよな……」
そう言った後。オレを見て、先輩がふ、と微笑んだ。
「スーツ着てる三上がさ、オレに笑ってるのが――――……なんか不思議」
「それ言ったら、オレの方がもっと、不思議ですけどね」
即座に言い返すと、先輩はまた、ぷぷっと笑った。
「勢いすご」
「つか――――……どう考えたって、オレの方が不思議ですよね」
「まあ……そうだよね……」
少しの間無言で、砂利を踏む音の中、ゆっくりと歩く。
「なあ、三上」
「はい」
「……志樹に――――……話す?」
何を、とか、言うまでも無く。
密かにずっと考えていた事だったから、思わず固まる。
「……兄貴に会った瞬間にバレそうな気がしますけど……」
そう言うと、先輩は、確かに、と苦笑い。
「何か悟られるのはそうだと思うけど――――……詳しくはさ、言わない限りバレないじゃん?」
「まあ、そうですね」
「……聞かれたらどうしようか?」
「――――……」
「なんか、聞かれそうな気がするんだよね。ほんと、すぐバレそうで」
思い切り苦笑いで、オレを見上げてくる。
「帰りまでに考えといて?」
そう言われて、頷く。
確かに、何かはバレそう。
――――……でも。隠して、白を切ることもできなくはない。
そこは、オレ達がこれからどうするか、な気がするなー。
このままこの関係、続けていいなら。
兄貴に隠し続けるのは無理だと思うけど。
……今回限りで、元に戻るなら、敢えて兄貴に話す事は無いと思う。
――――……だから。
それ次第、だな。
結局またそこに戻った思考にため息を軽くついていると。
「痛て……」
先輩が急にそう言った。
思わず漏れた、と言う感じ。
「……ん? 痛いって言いました?」
「いや……なんでもない」
「言いましたよね、痛いって。 休みますか?」
聞くと、先輩は首を振る。
「ごめん、砂利がさー歩きづらくて……気にしないで」
「どこが痛いんですか?」
心配して聞いてるのに。
先輩はぷるぷる首を振って、教えてくれない。
「先輩?」
「――――……だから、大丈夫。一瞬痛くて、咄嗟に声が出ちゃっただけだってば」
すごく嫌そう。
なんだろ、と首を傾げてる。
「……ああもう……」
「?」
「……股関節が、なんか痛いんだよ。筋肉痛みたいな」
「股関節?」
何で? と思った瞬間。
……ああ、昨日――――……めっちゃ脚、開かせすぎた?
…………て、そういうこと?
と、先輩を見ると。
オレの視線に、先輩は一気に赤くなった。
「もう追及すんなよっ」
ぷ、と笑って。
「ストレッチしてくださいね」
そう言うと。他人事だと思って……と、先輩がブツブツ怒ってる。
「…今からストレッチしたって、なおんねーし」
そんな風に言いながら、先輩はむー、と、オレを見上げる。
「……それとも。次のためにストレッチしとけってこと?」
「――――……」
なんか、むっとしたまま言うので。
心の中はよく分からない。
どんなつもりで、聞いてるんだか。
「……次のためって言ったら、してくれますか?」
オレが、試すようにそう聞いたら。
「――――……うん。いいよ?」
ムッとしてた顔を解いて、ぷ、と笑って、先輩は頷いた。
あーもう。
……何でこの人は。こんな感じなんだろ。
――――……恥ずかしがるくせに。
たまに、ぽろっと簡単に受け入れたり。
ちゃんと考えて答えてほしいんだけどな。ほんとに。
考えてんのかな、ほんと。それ、どーいう意味か。
クスクス笑ってる先輩を、じっとりと、見下ろしてしまう。
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