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第111話◇結婚願望
きなこのパフェ。
……美味しいのかな。
白玉とアイスときなこ、かな?
先輩がめちゃくちゃ笑顔で食べてるのを見てると、ふ、と笑ってしまう。
オレは、今日はわらび餅を頼んでみた。先輩も食べたいと言ってたし。
口に入れた瞬間。
柔らかくて溶ける感じに、ちょっと驚く。
「先輩、これ、めっちゃうまいですよ」
「え、マジで? 食べたい」
「ん。いいですよ。今食べます?」
「うん」
先輩の口に、ぱく、と運んで食べさせる。
――――……オレの手から、食べてくれるの。
なんか、可愛い、なあ。
なんてオレが思ってるのは、先輩には内緒。
瞬間、嬉しそうにふわ、と笑う。
「……溶ける」
「でしょ。これはうまい」
「生クリームとかアイスより、そういう方が好きなんだね」
「どうだろ。そっちも最初の1口2口は美味いですよ」
「最後まで美味しいけどね。……まあ。いーけど。三上が残したらオレが食べるから」
ぷぷと笑いながら先輩が言うので、「太りますよ?」と言ったら。
「オレ太った事はないけど…… 太るのかなあ?」
「さあ…… 先輩が太った姿、想像できないですけど」
「しなくていーって」
苦笑いしながらも、もぐもぐスイーツを食べすすめてる、先輩。
「ていうか、こんなスイーツ普段は食べないからね」
「そうなんですか?」
「1人でこんな店入らないし。仕事帰りに1人で買って家で食べるってのもなんか無いし。たまにコンビニでアイス買う位かなあ」
「そうなんですね……」
ふーん。……わりと会社とマンションの近くに、色んなカフェとかあるけどな。行かないんだ。
「あれ。……そういえば、先輩の家って、どこなんですか?」
2年も一緒に過ごしてたのに、そんな事も、知らない。
ちょっと複雑になりながら聞くと。
「オレ三上ん家は知ってるよ」
「ん?」
「志樹が言ってたから。夕飯食べて会社に帰る時、教えてもらった」
「あ、そうなんですか」
「オレのマンションは、そこから駅と反対方向に向かって、5分位かなー」
「え」
「ん?」
口にアイスを運んで、スプーンを咥えながら、先輩がオレを見上げる。
「そんなに近いんですか?」
「ん。 ていうか、入社2年目に、会社に近くなりたくて引っ越したから。あそこら辺家賃高いから、1Kでほんと狭いけど。寝に帰るだけだし」
「――――……」
なんか。そんなに先輩と近くに居たんだと思うと。
……そんな事で嬉しい。
「お前のマンション、外観すごいよな。高そう」
「あそこ、親父のマンションなので……家賃払ってないです。ていうか、オレ名義になってます」
「……金持ち、ずるいなー」
言いながら、クスクス笑ってる。
「部屋広いの?」
「んー 3LDKですね」
「使わなくない? そんなに部屋」
「物無い部屋もありますけど。結婚してもそこ住めば?とか言われて貰いましたけど」
「……ふうん」
あ。
なんかちょっと、間が空いた。
「――――……あの」
「……んー?」
ただ間延びしてるだけなら、いいんだけど。
……なんか、声のトーンも気になる。
「あの……違いますよ? 親父がそう言ったってだけで」
「……ふーん」
「別にオレ、結婚願望とか無いですし」
「……そう?」
「ほんと全然無いですし。ていうか、今は余計ないですし」
「……ふうん……」
「――――……」
オレから目は逸らしたまま、スプーンでパフェをすくって口に入れて。
また、そのままパフェを見つめてるし。
「先輩? ……こっち見てくださいよ」
「――――……」
黙ったまま、先輩は、やっとゆっくりと、こっちを見上げて。
――――……オレが何かを言おうとした瞬間。
クスクス、笑い出した。
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