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第116話◇side*陽斗 2

「……っ……」  舌が絡んで、深い、キス。  ドアのすぐ裏だから、声は、出せない。  ふ、と息をついて、三上の背に、しがみついて、少し、耐える。 「――――……み、か……っ」  激しいキスに、ぞく、と震えて。  ヤバいと思って、三上のシャツを引っ張った。  舌を甘く噛まれて、ふ、と声が漏れた。 「……陽斗さん?」  熱っぽい瞳で、オレを見下ろす。  ――――……今この時……三上が、オレを好きって、言ってくれてるのはすごく伝わる。オレも、好き、なんだけど……。 「……三上、ばか……こ、んなとこで……」 「……あー。すみません……ヤバい事するつもりじゃないとか言って」  ポリポリ頭を掻きながら、三上が苦笑いを浮かべる。 「だって、陽斗さん、可愛くて」 「――――……バカ。も、座ろ」 「――――……」  ふ、と笑った三上が、オレの頬に触れて、触れた反対の頬にちゅ、とキスした。 「はい」  にっこり笑って、オレを離した。  ――――……ああなんか。  胸がキュンキュンするとか。  この年になって、こんな感覚、感じるとか、思わなかった。  ――――……ていうか、こんな風に感じるの、三上が初めてかもしれない。  ……強烈すぎなんだよ、お前……。  何なのその、視線の圧は。  ……勝てる気がしないっつの。  ――――……今からオレが思ってる事言ったら。  何て言うかなあ……。 「陽斗さん、顔エロいから冷まして」 「……っ」  誰のせいだ……。  めちゃくちゃなキス、して……!  つかもう、なんで三上はけろっとしてるのかなー。もう。  人の、感覚だけ、勝手にやたらにあげといて、自分は涼しい顔とか……。  時間と共になんとか熱が冷めて、落ち着いてから、オレは、口を開いた。 「あのさ、三上。……怒るかもしれないけど……最後まで聞いて?」 「……怒る? オレが?」 「うん」 「怒りはしないですよ。ちゃんと聞きます」 「……うん」 「あ。その前に、注文だけしちゃいましょうか」  ふ、と笑って、メニューを渡してくる。 「うん」  いっしょに選んで、三上がタッチパネルで注文を入れる。  後輩だから率先してやってくれるのか、もともとこういうタイプなのか……。どっちだろ。 「こういう注文とかって、いつも三上が、さっとやる?」 「え? あー……先輩だからですかね……今は」 「友達と居たら?」 「パネルに近い奴がやればいいかなーと……」 「彼女と居たら?」 「そういうのやりたい子なら、やらせるけど――――……って、何が聞きたいんですか?」  苦笑いしながら、タッチパネルを片付けて、オレを見る。 「んー。なんか自然といっつも注文とか、ささーっとするからさ」 「――――……」 「エスコートすんの慣れすぎ、と思って」  三上は、はー、とため息をついて。 「それ絶対オレにとってあんま良くないですよね?」 「え、そんな事ないよ? すごいなーと思ってるし」 「――――……」  またため息ついてる。  そんな事ないって言ってるのに。そのため息がよく分からない。 「三上のそのささっと気を使えるとこがすごいなーて思ってるだけだよ?」 「……まあ。そういうことで聞いておきますけど」  三上はクスクス笑う。  今までずっと、至近距離では顔を見ないようにしてきた。  笑って見つめ合わないように。    こんな風に笑うの、知らなかった。  ………それを、こんなに、好きだなあとか、思う事があるなんて。 

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