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第119話◇可愛すぎて。

 先輩は、ほんと。  ――――……無防備というか。  個室の部屋に入ると、先輩は、「ヤバい事しても、バレなそう」とか言い放った。  人目がある所じゃ、まともに話が出来ないと思ったから取った個室。  ――――……でも、個室という響きに、ヤバい想像をしてしまいそうになるのを、一生懸命、抑えていたのに。  だってさ。  ――――……すげえ好きだと思ってて。  散々、色んな事してた人と、個室とか。  ……でも、それは抑えて、まず話さないとと思っていたのに。 「……別にオレ、ヤバい事しようとしたわけじゃないですよ」  そう言うと、先輩は、あ、しまった、という顔で振り仰いでくる。  そんな間の抜けてる顔が、可愛いとか。はー。ほんと、オレって……。 「え。あ、分かってる。けど……」 「――――……さっき、話してる途中で、先輩――――……陽斗さんが、目立つからストップって言ったでしょ?」  敢えて、陽斗さんと呼び変えてみる。  ――――……すぐ反応するの、ちょっと可愛い。  陽斗さんと呼んだら、いつも、最初は少しだけ反応して見上げてくる。 「これから新幹線だし、東京に帰ってご飯食べるにしても、知り合いがいるかもしれないし――――……昼食べながらゆっくり話したいって思っただけです」 「――――……うん。わか、てる」 「なのに何で、ヤバいこと、とか言うんですか?」  なるべく考えないように、頑張ってたのに。   ふ、とため息をついてしまう。 「そーいうこと言われると……そっちを考えちゃうんですけど」 「…………ごめん、てば」  なんだか――――……目の前で、恥ずかしそうな先輩を見てると。  もう、触れたくて、どうしようもなくなる。  立ち上がって、先輩の手を引くと、すんなり、立ち上がってくれる。 「陽斗さん、ちょっとこっち、来て」  背をドアに押し付けた。  抵抗は、全くない。嫌そうなそぶりも、まるで無い。  腰と背に手を触れて、オレの方に引き寄せると、先輩はまっすぐにオレを見上げる。  ――――……自然と、まっすぐに、見上げてくれるのが。  もう可愛くてしょうがない。  オレもう、ほんとに、この人が好きなんだけど。  何回も何回も、確認してる気がする。 「……あのさ、陽斗さん」 「――――……うん」 「……オレ、何度もあんたに好きって言ってるし。陽斗さんも……そんなような事言ってくれて。でも、意味を考えようっても言ってるし――――……それでも、昨日、あんな風にしちゃって……」 「……うん」 「――――……正直、オレは、もう、陽斗さんと、付き合いたい」 「――――……」 「……意味なんか、もう、昨日の時点で分かってたし」 「――――……」 「好きじゃなきゃ、しない」  思いのままに伝えると。  先輩は、まっすぐ見つめ返したまま。  なんだかものすごく、切なそうな顔をした。  泣くのかな、と思うような、表情。 「……陽斗さんも、オレが好き……?」  思わずそう聞いていた。  そしたら。 「――――……うん……好きじゃなきゃ……オレだって、しない……」  そんな風に言われたら、もう。  キスするしかない、というか。  何か続けようとしていたのは分かったけど。  その唇に、キスした。   「……っ……」  舌を絡めると、上向いてる先輩の喉が、ひく、と震えた。  小さく、ん、と声が出る。  ――――……すげー可愛い。  ぐい、と更に抱き寄せて、深く深く、キスすると。  多分、ここじゃ声が出せないから我慢してるんだと思うけど。  背中にしがみついて、多分、声を堪えようとしてる。 「……っン……ふ………………」  漏れる声――――……可愛い。 「――――……み、か……っ」  びく、と体が、震える。  すると、先輩は、オレの服を引っ張って。    離さなきゃなと思うんだけど、可愛くて離したくなくて、舌を軽く噛むと。ぴくと震えて、また小さく声が漏れる。  ――――……何でこんなに、可愛い、かな……。 「……陽斗さん?」  シャツを引っ張られるので、仕方なく離して、見下ろすと。 「……三上、ばか……こ、んなとこで……」  ほんとこの人。キス、弱い。  顔赤いし。  潤んでるし。  息、熱いし。  そんな風に、しがみつかれると。  ――――……ここで我慢するの、かなりキツイんですけど。  ……そんな風に、オレの目に映ってるとか。  絶対分かってないんだろうけど。

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