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第120話◇まっすぐで。
我慢は大変だけど。
――――……まあでもこれ以上する訳にもいかないし。
「……あー。すみません……ヤバい事するつもりじゃないとか言って」
きまりが悪くて、苦笑いでそう言うけれど。
「だって、陽斗さん、可愛くて」
言い訳もしてみると。
「――――……バカ。も、座ろ」
恥ずかしそうに、視線をそらして。
また可愛いし。
先輩の頬に触れて、顔をこっちに向けさせて、その頬にキスした。
またそういうことする……みたいな顔が、可愛くて。
にっこり笑って、そっと離した。
向かい合って座っても、まだキスした時のまま、顔、とろんとして、ぼーっとしてる。
「陽斗さん、顔エロいから冷まして」
そう言うと、先輩は余計恥ずかしそうで。……逆効果だったかも。
店員が置いていった水を一口二口飲みながら、自分を落ち着けているらしい。しばらく待っていたら、先輩が話し出した。
怒るかもしれない、とか言う。
――――……先輩が言う事で、そんな怒るとか無い気がするんだけど。
先に注文してしまおうと思って、2人共メニューが決まったら、さっさとタッチパネルで送信した。そしたらなんと。
……エスコートすんの慣れすぎみたいな事を言われて、ちょっと固まる。
…………エスコートって。オレ今注文しただけなんだけど…… あーこれきっと、女と行く時、こういうこといつもささっとやってるとか、そういう意味で言ってるんだろうなーと思って。オレ今、早く先輩の話が聞きたかったから急いでやっただけなんだけど。
思わずため息とともに。
「それ絶対オレにとってあんま良くないですよね?」
先輩に迫ってるオレにとって、それはあんまり良くないイメージだよな?
と思って聞くと。
「え、そんな事ないよ? すごいなーと思ってるし」
きょとんとして、そう返事が来る。
何なんだろ、本気で褒めてんのか?
……よくわかんね。
思わずため息を付くと。
「三上のそのささっと気を使えるとこがすごいなーて思ってるだけだよ?」
なんか素直な顔で、素直な言葉で、普通にほめてるだけな気もしてきて。
ちょっと笑ってしまう。
「……まあ。そういうことで聞いておきますけど」
ほんと――――……なんか、まっすぐで、好きだなー……。
しみじみ目の前の、綺麗な人を眺めてしまう。
ふ、と気を取り直して。
「はいどうぞ。聞きますよ、陽斗さん」
そう言ったら、先輩が少し緊張して、頷いた。
――――……何、言う気なんだろう。
先輩ってたまに、突拍子もないこと言うから少し覚悟を決める。
怒るかもって言ってたって事は、結局は無理、てことかな。
もしそうだったら、どうしようかな。って、そう簡単に、諦めないけど。
こっちまで、少し緊張する。
まっすぐ見つめ合う中。先輩が言ったのは。
「あの、な、三上。結論から言うと……すぐ付き合うのは無理」
「はい」
これだった。
――――……思ってた通り、無理、とは言ったけど。
「すぐ」付き合うのは無理、と言った。
て事は――――……すぐじゃなければ良いのかな。
頷いたまま、次の言葉を待っていると。
「……オレ、今、お前の事――――……すごく好きだと思う」
「……はい」
――――……すごく好き。
だって。
そんな風にまっすぐ、言ってくれるんだ。
と少し驚いて。こんな、無理って話の途中なのに、つい微笑んでしまう。
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