120 / 273

第120話◇まっすぐで。

 我慢は大変だけど。  ――――……まあでもこれ以上する訳にもいかないし。 「……あー。すみません……ヤバい事するつもりじゃないとか言って」  きまりが悪くて、苦笑いでそう言うけれど。 「だって、陽斗さん、可愛くて」  言い訳もしてみると。 「――――……バカ。も、座ろ」  恥ずかしそうに、視線をそらして。  また可愛いし。  先輩の頬に触れて、顔をこっちに向けさせて、その頬にキスした。  またそういうことする……みたいな顔が、可愛くて。  にっこり笑って、そっと離した。  向かい合って座っても、まだキスした時のまま、顔、とろんとして、ぼーっとしてる。 「陽斗さん、顔エロいから冷まして」  そう言うと、先輩は余計恥ずかしそうで。……逆効果だったかも。  店員が置いていった水を一口二口飲みながら、自分を落ち着けているらしい。しばらく待っていたら、先輩が話し出した。  怒るかもしれない、とか言う。  ――――……先輩が言う事で、そんな怒るとか無い気がするんだけど。    先に注文してしまおうと思って、2人共メニューが決まったら、さっさとタッチパネルで送信した。そしたらなんと。  ……エスコートすんの慣れすぎみたいな事を言われて、ちょっと固まる。  …………エスコートって。オレ今注文しただけなんだけど…… あーこれきっと、女と行く時、こういうこといつもささっとやってるとか、そういう意味で言ってるんだろうなーと思って。オレ今、早く先輩の話が聞きたかったから急いでやっただけなんだけど。  思わずため息とともに。 「それ絶対オレにとってあんま良くないですよね?」  先輩に迫ってるオレにとって、それはあんまり良くないイメージだよな?  と思って聞くと。 「え、そんな事ないよ? すごいなーと思ってるし」  きょとんとして、そう返事が来る。  何なんだろ、本気で褒めてんのか?  ……よくわかんね。  思わずため息を付くと。 「三上のそのささっと気を使えるとこがすごいなーて思ってるだけだよ?」  なんか素直な顔で、素直な言葉で、普通にほめてるだけな気もしてきて。  ちょっと笑ってしまう。 「……まあ。そういうことで聞いておきますけど」  ほんと――――……なんか、まっすぐで、好きだなー……。  しみじみ目の前の、綺麗な人を眺めてしまう。  ふ、と気を取り直して。 「はいどうぞ。聞きますよ、陽斗さん」  そう言ったら、先輩が少し緊張して、頷いた。  ――――……何、言う気なんだろう。  先輩ってたまに、突拍子もないこと言うから少し覚悟を決める。  怒るかもって言ってたって事は、結局は無理、てことかな。  もしそうだったら、どうしようかな。って、そう簡単に、諦めないけど。  こっちまで、少し緊張する。  まっすぐ見つめ合う中。先輩が言ったのは。 「あの、な、三上。結論から言うと……すぐ付き合うのは無理」 「はい」  これだった。  ――――……思ってた通り、無理、とは言ったけど。    「すぐ」付き合うのは無理、と言った。  て事は――――……すぐじゃなければ良いのかな。  頷いたまま、次の言葉を待っていると。 「……オレ、今、お前の事――――……すごく好きだと思う」 「……はい」  ――――……すごく好き。  だって。  そんな風にまっすぐ、言ってくれるんだ。  と少し驚いて。こんな、無理って話の途中なのに、つい微笑んでしまう。

ともだちにシェアしよう!