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第121話◇可愛い人。
先輩は、一生懸命、言葉を選びながら話してる感じ。
仕事の時とは、全然違う。
可愛い話し方になっちゃうの、何でなんだろう。
「だけど……恋人とか、急になるには……なんか考える時間も全然なかったし。こんなさ2人きりで2晩も一緒で――――……しかも旅先とか特殊だし。これで確定させるのはどうかと思っちゃうんだよ」
「――――……はい」
まあ。それは、分かる。
分かるけど――――……。
別に旅先でいつもと違う感じで盛り上がったから、したわけじゃない。
もし、東京で、オレの家で過ごしてたって、同じ相談されてたら、ああなってたと思うし。そりゃ先輩と、非日常を過ごせたのは、楽しかったけど。
別に旅先だから手を出した訳じゃないし。
オレはもう、変わらないと思うけど。
思う事は次々浮かぶけれど、とりあえず先輩が言いたい事を言い終えるまでは我慢。
「特に三上はさ。仕事3年目でさ……慣れてきたし、これから、プライベートとかも結構楽しいはずの時期だと思うんだよね」
「――――……うん」
…………うん? 何だそれ。
オレのプライベートが楽しくなる時期?
――――……オレの心配してんのか。……なるほど、ね。
なんか先輩らしいな。
そんな風に思いながら、先輩の言葉の続きを待っていると。
「東京に帰って、日常に戻ったら少し落ち着くだろ? この盛り上がってんのが落ち着いてから――――……三上もさ、普通に過ごしてもらっていいしさ。それから、決めない?」
「――――……んー……」
まあ。……先輩によく考えてから決めてもらった方がいい気がするのは、
オレもそう思う。けど。少し気になるのは。
「最後のだけよく分かんないんですけど」
「……うん?」」
「オレが普通に過ごすってどういう意味ですか?」
「――――……」
そう聞くと、ちょっと決まりが悪そうな顔。
「普通ってことは――――……合コンしたり、女と遊んでいいってこと?」
「――――……そういうのも含めて、言った」
「良いんですか?」
「……うん」
これ、良いって言われたら、結構嫌なんだけど。
――――……オレが他でそういうことしても良いとか。
すげーいやだな。
……でも、少し間が空くってことは。やっぱりちょっと嫌だって事だよな?
「……陽斗さんも、そうするってことですか?」
一番気になる事を聞いてみると。
「……オレももちろん、自由に考えるけど――――……ほら、オレは……一昨日まで、あんな事で悩んでた位、だからさ」
そんな風に言う。
――――……てことは、先輩は、他には行かないってこと、かな。
あれ、でも。
「……キスとか、平気になったんじゃないですか?」
「――――……?」
不思議そうな先輩。
「キスしたいって、今は思いませんか?」
あんなにキス、気持ちよさそうにしてたし。
――――……そういうスイッチ、入れ直したとしたら。
もしかして、オレとじゃなくて、やっぱり女の子とってなるかも?
ちょっと――――……それは、どーにか阻止したいけど。
そう思っていたら、目の前で、何だか複雑そうな顔をした先輩。
「今何考えました? 困った顔してないで全部言ってよ」
なんか、女の子としてみようとか。そういう事を考えてて隠してるのかなーとか、思ったら。
「……三上とすんのは、気持ち良いのは分かったけど……他としたいとは、今んとこ思わないかも………」
「――――……」
何だそれ。
結構びっくりした。
ほんと、何なの。――――……すげー、可愛いんですけど。
オレとすんのが気持ちいいって。
他としたいとは思わない。
って、なんだ、それ。
そんな事言っといて、オレに、他にも楽しめって言ってんの?
――――……どんだけなの、それ。
それとも。
ほんとにそう思うから、そう言ってるっていう。
先輩の……なんかやたら素直な気持ちって事なのかな。
……つか。可愛い。
ん? ちょっと待って。
――――……「今んとこ」は?
いや、そんなの、「今んとこ」じゃなくて。
ずっと、オレとだけって思わせたい。
それにしても。
――――……じゃあ自分は少なくとも、今のとこは、他にはいく気はないけど、オレには、プライベート、楽しむ時期だって?
「……てことは、オレだけ自由にしていいってことですか……」
なんかほんと、変なこと言ってんなあ。
……何な訳。オレが先輩を好きだって、信じてないのかな。
――――……まあ。先輩も自由にしたいって事じゃなくて、良かったけど。
どっちにしても。オレを自由にって。
オレによく考えてって。
……そのくせ、オレ以外とかしたくないとか、普通に言っちゃうし。
なんかもう。たまんない。
――――……ほんと、はー。
可愛い人だなー……。
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