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第123話◇迫るから

「つか、何でですか」  何、変な奴って。  ……苦笑いしか浮かばない。  そこで店員が入ってきて、食事を並べていく。  少しの時間、黙って考える。  ――――……もう、オレが好きなのは絶対で。  ていうか、2年前、会った時からかも。  ムカついてたけど、尊敬もしてた。  あんなんでも、この人の事が嫌いになれなくて。  ――――……オレに、笑って欲しいって、多分ずっと、思ってた。  先輩は、今から楽しい時期だとか言うけど。  オレ結構モテたし。今から改めて女と楽しんで、とかしなくたってもう分かってるし。  女と比べても、それでも今、どうしてもこの人が可愛くて、手に入るなら離したくないと、思ってて。  この先どうなるかとかは、分かんねえけど。  ――――……一緒に居られる限り、一緒に居たいと思う事に、男も女も関係ない。  ……抱く事も出来たから、そっちも全然問題ないし。  つか、セーブすんのが大変な位で、もはや、オレ、ヤバいし。  まあどうせ会社は兄貴が継ぐし。  別にオレは結婚とかしなくても、いけるだろう。  オレが先輩と一緒に会社を支えるってことになれば、反対もしないだろうとも思うし。  ――――……先輩がその気になってくれたら、言う事ないんだけど。  食事の準備を終えて、店員が出て行った。  オレは、先輩をまっすぐ見つめた。 「オレと付き合ってもイイって、先輩に言わせればいいんですよね?」 「――――……」  敢えて、「先輩」と呼んだ。  ここからしばらくは、「先輩」でいこ。  先輩は、オレのそのセリフにちょっと戸惑い気味。  その表情が可愛くて。思わず、頬に触れてしまった。 「なんか先輩はオレを自由にしたい期間にしたいみたいですけど」 「――――……」 「オレは、先輩に迫る期間にします」  ぷに、と頬を摘まんで、それから、名残惜しいけど、手を離した。 「食べましょ、先輩」  そう言うと、オレが触れてた頬に、自分でも触れながら。  先輩は、ふ、と微笑んだ。 「……何で、途中から、先輩て、呼んでんの?」  食べ始めて少しして、先輩が聞いてきた。 「んー。なんとなく。……恋人じゃないっていうけじめ?」 「……ふーん……?」  何だか不思議そうな顔の先輩に。 「オレに、名前で呼んでほしかったら、早くOKしてくださいね」 「べ、つにっ……呼んでほしいなんて言ってないし」  ほんと、三上ってさ……。  とか、ブツブツ言いながら、もぐもぐ食べてる先輩に。  ぷ、と笑ってしまう。    とか言っても。  そーいうことする時は……陽斗さん、て、呼ぶけどね。   「ね、先輩」 「ん?」 「オレが迫るのは許してくれますよね?」 「――――……オレ以外のことも、見ろよな?」  ……見ねーけど。 「お互いちゃんと考えてから決めよう」 「とりあえず言ってる事は分かりましたけど――――……オレが考えるのは、他の奴との事じゃなくて、先輩との、これからですからね」 「――――……」  先輩は黙ったまま、マジマジとオレを見つめてくる。  ほんとにおまえは、どーしてそういうセリフを、そんなふうに軽くさらさらと……。  ていうような、心の声が聞こえる気がする。 「……先輩、今何考えてますか?」 「三上って、どーしてそういうこと、平気で言えるのかなあって、思ってる……」  まさに、というような返答に、思わず、クッと吹き出してしまう。  金曜の会社まで、この人が何考えてるか、全然分かんなかったのに。  ――――……今はすっごく、分かる気がする。  なんか、すげー、嬉しい。   「オレ、ほんとに迫りますから。オレは、オレのしたいようにするので。嫌だったら、オレの事、止めて下さいね。無理矢理、何かしたりは、しませんから」 「――――……」  何を考えたんだか、分からないけど。  先輩は、かぁ、と赤くなって。  返事は、してくれなかったけど。  可愛くて、しょうがなかった。

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