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第124話◇すごく。
その後は普通に食事を取って、店を出た。
京都の町を惜しみながら、ゆっくり歩いて、新幹線の時間に合わせて、ロッカーから荷物を取り出した。
「これで、京都、お別れかー」
何だかしみじみ言いながら先輩がふ、と息を付いている。
「明日会社だな。金曜、仕事残してきちゃったし、忙しそうだな」
「そうですね」
苦笑い。
「今日は早く寝ましょうね」
「ん、そうだな」
「一緒に寝ますか?」
ふと、そう聞いてみたら、先輩は、マジマジとオレを見て。
「やだよ。寝ないし」
「何でそんな嫌そう……」
くっと笑ってしまう。
「明日はちゃんと仕事モードになりたいから。朝からお前と一緒とか、無理」
眉を寄せたまま、プルプル首を振りながら、そんな風に言う。
「ふーん……」
今の先輩のセリフを、自分の中で考えてると――――……なんか、笑えてきた。
「何? 何で笑うんだよ?」
「だって、オレと朝から一緒だと、仕事モードになれないって事ですよね?」
「――――……」
あ……と。今気づいたって顔して、俯いてしまった。
「朝から一緒だと、仕事モードになれなくて、どんな先輩になるのかなーて、色々考えちゃいますけど」
「――――……別に……普通、だし」
「じゃあ、一緒に寝ますか?」
「――――……寝ないからな、今日は」
「ふうーん」
わざと伸ばして返事をしていると、先輩は嫌そうにため息。
「……普通の顔できる訳ないじゃん」
――――……あー。
ほんと。
――――……かわいーな。先輩。
「いこ、三上。新幹線の方」
「……はい」
もう前言撤回して、ここで、思い切り、抱き締めたいんだけど。
新幹線のホームで、駅弁が売ってるのを見る。
「ちょっと食べたいですね、駅弁」
「でもなんか、さっき昼食ったよーな……その前スイーツ食ったし……帰ったら夕飯食べるんだろ? あ、夕飯を弁当にする?」
先輩の言葉に。
ん?そーすると、もう駅ついたらすぐ別れて帰るって事じゃん。
無理無理。
「あ、やっぱり今腹減ってないんで。飲み物だけ買ってきます。何飲みます?」
「いいよ、オレ買ってくる。荷物見てて。コーヒー?」
「あ、はい」
「ブラック? アイスだよな?」
「はい――――……」
「ん、了解」
先輩が頷いて、売店に歩いて行く。
その後ろ姿を見ながら。
「――――……」
コーヒー? ブラック? アイスだよな?
……って。確かにそれ、買おうと思ってたけど。
会社でオレが良く飲んでんの。知ってんのかな。
一緒に、あんまり飲んでないけど……外回りん時に飲んだことあったかな。
「ん、三上」
「……ありがとうございます、先輩」
「うん。あ、新幹線、来たよ」
先輩が、笑顔でオレを振り返る。
なんか。
すごく、好きだなあ、と思って。
――――……人、今、居ない。新幹線が入ってきて、すーっと、通り過ぎていく。
キス、したかったけど――――……。
そっと、頬に、触れて。すり、と撫でた。
新幹線が止まる前に、すぐに手は離した。
「――――……っ」
びっくりした顔でオレを見つめた先輩は。
一瞬で、かあっと赤くなって。
「つか――――…… キスされるより、恥ずいんだけど……」
そんな風に言うから。
何だか、ものすごく、可愛くて。 ふ、と笑ってしまった。
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